研究課題/領域番号 |
19K05631
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
隅本 倫徳 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (40414007)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | スイッチング分子 / 金属ビスフタロシアニン / 機能性分子 / 分子設計 |
研究実績の概要 |
本研究は、耐熱性、耐薬品性などの使用特性で優れ、様々な電子材料に利用されている機能性色素である金属ビスフタロシアニン(MPc2)およびその類似構造に着目し、一つの分子で二つの分子構造を,熱もしくは光により,行き来することができるスイッチング分子を開発することを目的としている。2019年度は、計算手法の探索および数種類の金属に対して、MPc2の二状態の安定性評価を行った。また、フタロシアニン環の類似骨格であるテトラベンゾポルフィリン(tbp)、ポルフィラジン(Pzc)およびテトラピラジノポルフィリン(tpp)のダブルデッカー型分子についても同様の安定性評価を行った。さらに熱的および光誘起異性化反応の一部について検討を始めた。 本研究では基礎研究とは異なりギブス自由エネルギーをエネルギーの評価基準とするため、まずは実験的に確認されている分子を用いて計算手法を評価した。十数種類の汎関数を用いて評価したところ、M06系汎関数が実験と似通った結果を示したため、本研究ではこの汎関数を使用することとした。中心金属がTiの場合、D2およびD4d対称構造の安定性について評価したところ、Pc、Pzcのときに二状態が安定で、かつ自由エネルギー差が小さい、ということがわかった。また、中心金属がV, Nb, Zrのとき、同様の検討を行ったところ、ZrPc2で二状態の自由エネルギー差が小さくなると計算された。二状態間の自由エネルギー差が小さい分子に対して、熱的異性化反応の遷移状態構造の探索を試みた。遷移状態は得られたものの、二状態間を結ぶものではなかった。しかし、得られた遷移状態構造から新たな安定構造を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MPc2およびそれらの類似構造を用いて,安定に存在できる二状態構造ならびに二状態間をつなぐ遷移状態構造を含めた化学反応を理論計算することで,新たなスイッチング分子を理論設計し,さらに設計した分子構造を実際に作製する手法も実験的に確立させ,スイッチング分子を開発するという、という研究目的を達成するために、(1) MPc2およびMPc2+の熱的異性化反応の反応解析、(2) MPc2およびMPc2+の光誘起異性化反応の反応解析、(3) 置換基導入効果の評価、(4) tbpおよびPzc骨格による異性化反応の評価、の四つの課題を挙げ、それに対応するように研究計画を立てた。当初の計画と順序は異なるものの、(1)および(4)の理論的評価は八割程度、(2)の理論的評価の五割程度は終了している。現在は(2)とそれに(4)を組み合わせた、MPc2およびその類似化合物による光誘起異性化反応の反応解析を行っているが、次年度ではPcなどの環状π共役系化合物に置換基を導入し、対称性を崩した分子構造でスイッチング分子を作成できないか、を検討していく。以上の結果から、本研究課題はおおむね順調に進行していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は現在のところ、研究計画の前後はあるもののおおむね順調に進行しているが、今度の課題は、反応機構の探察および実験による化合物の合成である。反応機構に関してはすでに研究が進んでいるが当初考えていた反応とは異なる機構が得られている。この機構でスイッチング分子を構築すると考えた場合、分子中のどこかに置換基を導入し、対称性を崩す必要がある。そこで今後は実験化学の研究協力者に、実験的に導入しやすく、異性化反応が容易に起こる効果が期待できる置換基を検討し、理論計算により評価する。本研究では実在している分子に置換基を導入する方法を考えており、新たな分子を設計し合成するより短時間での成果が期待できると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった計算プログラムVASPは、ウィーン大学から購入するプログラムである。そのプログラム購入での書類で時間がかかったため、購入金額分を次年度に持ち越すことになった。2020年度、繰越額によりこのプログラムを購入予定である。
|