研究課題/領域番号 |
19K05632
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
小簑 剛 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (20547301)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 表面プラズモン / 量子状態制御 / MEMS / 分散関係計測 / 波動光学シミュレーション / WGM / モード結合 |
研究実績の概要 |
光WGMについて、有機半導体の発光色素を利用して、モードの制御を試みた。これは、WGMのモード制御方法の検討そのものの他、作成した装置のシステムチェックおよび測定結果とシミュレーションの整合性を確認する意味がある。フォトリソグラフィを利用して、シリカからなる円筒状の構造が施されたガラス基板を作製した。その上から発振閾値の低いレーザー色素として知られるスチルベン誘導体であるBSB-Cz薄膜を成膜することでディスク状のWGM共振器を作製した。発光はディスク外縁部で起こっており、そのスペクトルにはWGM特有の櫛型のピークが現れた。シミュレーションによる解析の結果、このピークおよびピークの間隔は、用いた試料構造に由来するWGMの特性に一致した。WGM共振器の間隔が11ミクロン以上ではWGM共振器1つに由来するスペクトルが得られ、8ミクロン以下ではWGM共振器間のモード結合に由来するスペクトルが得られた。通常、WGM共振器間のモード結合はエバネッセント波が担っており、50 nm程度に共振器を近接させる必要がある。しかし、今回得られた結果は、8ミクロンもの長距離でもモード結合が起こることを示唆する。このことについて、ディスク状のWGM共振器から漏れた光が共振器間に成膜されたBSB-Cz薄膜を通して隣接する共振器に到達したためにモード結合が実現したと考えている。実際に、シリカビーズをランダムに積層させた上からBSB-Czを成膜し、共振器下面には導波路がない状態で同じ実験を行ったところ、モード結合は起こらなかった。この結果から、フォトリソグラフで実現可能な共振器構造を用いることによりWGMのモード制御が可能であることを見出した。さらに、開発した装置・準備したソフトウェアを通して、WGMの評価・解析・予測が行えることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
WGMの評価系が準備できた。光WGMを利用したシステムチェックは当初案に含まれていなかったが、これを行うことにより、開発した装置の妥当性および光学シミュレーションとの整合性を確認することができた。さらに、光WGMにおいて、8ミクロンもの長距離でモード結合が起こることを見出し、利用を予定しているMEMS技術について、電子線リソグラフィではなく、フォトリソグラフィでも十分にモード制御に関する結果を出すことができる感触を得た。本研究課題が着目するプラズモニックWGMの検討も進め、2020年度は、プラズモン共振器および活性材料にそれぞれアルミニウムとBSB-Czを利用した試料を作製したが、WGMの発振を確認するには至っていない。これは、シミュレーションから予想した結果と矛盾なく、『今後の研究の推進方針』で述べる方法で実験を行うことでプラズモニックWGMの発振および発振波長の能動的な制御が行えると考えている。 上記項目には記述がないものの、研究計画書に記載した、プラズモニックWGMの試料を用いた薄膜導波モードを観測および発光スペクトルの先鋭化の確認に関する実験を行い、スペクトルの先鋭化は確認できている。その次の行程、二次元パターニングの構造決定が現在進行中であり、これらは、研究計画の通りである。 対外発表ができる状況となり、本研究課題について2件の学会発表を行った。また、1件の論文を投稿中であり、別の1件について投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していたディスク構造単独での発振は挑戦的かつ応用範囲の広い技術であるが、共振器単独ではなく、その二次元充填構造を用いて検討を継続する。既往の研究では、専らキャパシタ型の構造が用いられている。この理由を調べるためにシミュレーションを行ったところ、単独のディスク構造ではWGMとWGM以外のモード競合が強く起こることが理解できた。そこで、単独の共振器を基調とする構造ではプラズモンの共振が不可能であるかどうかについてシミュレーションを利用して調べたところ、その二次元パターニング次第では、発振が起こる可能性を見出した。積層したキャパシタ構造は簡単にWGMの共鳴を確認できる構造であるため、既往の関連研究では、この構造が用いられてきたものと推察する。一方で、本研究課題が目指す二次元的にWGM共振器を充填した構造でプラズモンの共振波長を制御するには、縦型に積層したキャパシタ構造が不可欠かと言えばそのようなことはなく、上述のように、また、当初の研究計画の通り、二次元的な共振器のパターニングにより共鳴波長を制御することができると考える。 2020年度に行ったMEMSによる試料作製行程はそのままに、上記、共振器構造の製作が可能なフォトマスクを準備し、2021年度は発振の確認と、波長制御性の実証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度未使用額が730508円となっているが、これは前年度の報告書作成時に確認した昨年度の支出額を反映したものであり、実際の未使用額は508995円である。そのエビデンスとして、2020年度末に別途申請した2021年度の請求額では、繰越額がゼロである。したがって、当該年度の所要額は前年度未使用額 508995円 + 支払請求額 700000円 + 間接経費譲渡額 210000円 = 1418995円で当該年度の実支出額 (A) と同じになり、その差額である次年度使用額はゼロとなる。
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