2020年度は、シリカからなる高さ500 nmの円筒を方眼の格子点に配置するようにガラス基板上にアレイ化した構造の上からスチルベン系発光分子BSB-Czを蒸着することでディスク状のWGM共振器を作製し、WGMのモード制御が可能であることを見出した。しかし、その機構は未解明であったため、波動光学解析を用いた解析を行った。その結果、マイクロディスクの外周から漏れたモードが有機薄膜を伝わって隣接するマイクロディスクに流れ込むことでモード結合が起こることを見出した。実際に、このシナリオで想定されるモード結合の距離 (すなわち、マイクロディスク間の距離) は8ミクロン程度であり、実験結果に矛盾しない。この距離は、通常用いられるエバネッセント波を介したモード結合に比べて100倍以上と長く、デバイスをフォトリソグラフィのような簡単な方法で作製できる意味で都合がよい。このような薄膜導波モードを利用したモード結合は研究計画の当初案でも想定していたことであり、したがって、光WGMではなく、プラズモニックWGMにおいても、当初案の通り、この原理を利用したモード制御が可能であることを示唆する。 残る課題はプラズモニックWGMによる発光増強そのものであるが、これまでのところ実現には至っていない。このことについて実験および計算から調べたところ、プラズモンの伝搬長に原因があることが明らかとなった。すなわち、プラズモンの伝搬長は一般に数ミクロン程度であり、5~20ミクロンのWGM共振器では共振器を1周する間にプラズモンのコヒーレンシーが失われることになる。しかし、共振器構造に工夫を講じることで、当初案で想定していたプラズモニックWGMを実現できる可能性を見出した。プラズモニックWGMからの発光スペクトル先鋭化はあと一歩のところまで来ており、今後、発展的に研究を継続することで、実現可能である。
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