研究課題/領域番号 |
19K05633
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
白石 幸英 山陽小野田市立山口東京理科大学, 工学部, 教授 (60289303)
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研究分担者 |
浅野 比 山陽小野田市立山口東京理科大学, 共通教育センター, 准教授 (60389153)
秦 慎一 山陽小野田市立山口東京理科大学, 工学部, 助教 (20796271)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 熱電変換材料 / 銀コロイド / カチオン性界面活性剤 / ハイブリッド膜 |
研究実績の概要 |
モノのインターネットを実現するための課題は、電源の確保であるが、電池交換、充電操作、電源配線などが容易ではない場所も多い。その電源技術のひとつとして注目されている技術が、熱、光、振動などを「ハーベスト」して、電力に変換する技術である。熱から電力を取り出す「熱電変換技術」は、可動部がないためメンテナンスフリーで長寿命、設置も容易な点で注目されている。本研究は、カーボンナノチューブ(CNT)/ナノ材料の界面を精密制御することで、p型およびn型熱電特性を示す新規ハイブリッド材料を創製し、高い熱電特性を示すフレキシブルなモジュールを開発するものである。 1) p型熱電材料:ゼラチンを用いたAgコロイド/CNTハイブリッド膜の熱電変換特性 ゼラチンは、コラーゲンの熱変性物質で、そのアミノ酸組成はコラーゲンと同一である。分散乳化性や、結晶核生成制御に優れ、永く銀塩写真の保護コロイドとして用いられてきた。以前、本研究室では、液相法により調製したAgコロイド/CNT複合膜が、高い熱電特性を示すことを報告した。しかし、この合成法では、Agコロイドの粒子径が58 nmと大きく、均一でない課題が残った。そこで、本研究では、CNTおよびAgの保護コロイドにゼラチンを用い、新規Agコロイド/CNTハイブリッド膜を創製し、この熱電変換特性について検討した。 2) n型熱電材料:カチオン性界面活性剤を用いたCNT材料の熱電特性 我々は、以前p型のCNTにヒドラジン誘導体をドーピングすることでn型の熱電特性を有するCNTを得た。しかし、従来のn型CNT熱電材料は有機溶媒系で作製されてきた。本研究では、水系において、カチオン性界面活性剤をドープしたn型CNT材料の熱電変換特性を系統的に検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) p型熱電材料:ゼラチンを用いたAgコロイド/CNTハイブリッド膜の熱電変換特性 調製したゼラチン保護Agコロイド(Gel-Ag)の平均粒子径は、4.9 nm で、均一であった。安定なAgコロイドが得られたのは、ゼラチンの金数が極めて小さく、すなわちゼラチンの保護力が高いためである。一方、ゼラチンのCNTに対する分散力は、期待した程高くなく、分散液は粗分散であった。熱電特性評価装置により得られたゼーベック係数と電気伝導度により、性能出力因子を算出した結果、ブランクCNTに対し、Gel-Ag@CNT複合膜は低下した。熱電特性の改善を目指し、複合膜の焼成を検討した。その結果、性能出力因子は、焼成前のサンプルと比較し、焼成後2.5倍向上した。 2) n型熱電材料:カチオン性界面活性剤を用いたCNT材料の熱電特性 CNTの半導体特性は、アニオン性界面活性剤を用いたときはp型であるのに対して、カチオン性界面活性剤ではn型を示した。この挙動は、界面活性剤の濃度・疎水基鎖長を変化させても同様であった。塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC) 水溶液から得られたCTACドープCNTは高い電気伝導性を有しているため、n型の優れた性能出力因子を示すことがわかった。このフィルム構造を入念に調べたところ、CTAC分子はCNT表面に静電的に吸着していることがわかった。 これら熱電材料は、高分子基盤に対してCNT分散溶液をキャスト・乾燥することで得られ、柔軟性も有している。つまり、印刷技術を応用して大量作成することも可能である。プリンテッド・エレクトロニクスに対する寄与も非常に高い知見が得られており、本課題の進歩状況を判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、有機材料と無機材料とのハイブリッド化によるハイブリッド熱電材料の飛躍的な性能向上と、p型半導体および、n型半導体から成るπ型フレキシブル熱電変換モジュールの作製である。我々は予備的に、p型半導体のみから成るユニレグ型の熱電変換モジュールを作製している。しかし、熱電変換モジュールは、p型半導体とn型半導体の両方からなるπ型熱電変換モジュールの方が、配線は短く、単位面積当たりの素子数が多く効率に優れる。π型熱電変換モジュールを開発するためには、p型半導体の更なる熱電特性の向上と、空気下で安定かつ高性能なn型半導体の熱電材料が必要である。これには、主要材料であるCNTの性能に強く依存するため、CNTの性能の改善が必須である。令和元年度は、p型半導体特性および、n型半導体特性を示すそれぞれの材料開発に成功した。令和2年度は、銀コロイドの微細化や複合化によりホールドーピングされた高い出力因子のp型CNTを目指す。また、n型熱電材料では、二鎖型カチオン性界面活性剤を新たに設計し、特性向上を図る。更には、π型モジュールの試作を検討する。その際、モジュールにおける 温度に対する開放電圧と発電特性を調べ、適宜pn素子対の依存特性と個々の材料の最適化に取り組む。また材料性能は、母体材料であるCNTの電子状態が重要となるため、実験的手法のみならず、計算化学的手法を取り入れることで、研究速度の向上を図る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬の購入が、学内予算で1部補填できたため、また新型コロナウイルスの発生により、年度末の出張が中止となったため、使用額に変更が生じた。本年度の研究費は、原料試薬(カーボンナノチューブ)および、調製溶媒・ガラス器具の調達に使用する。
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