研究課題/領域番号 |
19K05638
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研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
松浦 幸仁 奈良工業高等専門学校, 物質化学工学科, 教授 (00416322)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポリシラン / メタクリレート / 共重合体 / 光重合 |
研究実績の概要 |
本研究計画では、ポリシランのメモリーデバイスへの応用を目指して、ポリメチルフェニルシランとメタクリルモノマーとの共重合体の合成に関する研究開発を行った。 単一分子の電気伝導の測定ではフラーレンなどのπ共役系分子において、磁気抵抗(MR)比が100%以上をもつ無機・金属化合物には及ばないものの、数10%のMR比を持つことが実験的に確認されている。ケイ素原子が直鎖状に連結して形成されたポリシランはπ共役系分子同様に主鎖内に非局在化した電子が存在する。その電子状態はσ共役と称される。ポリシランを基にTMR素子を構築すれば、同種の元素からなるシリコン基板との連結が容易で、しかも既存のLSI製造プロセスが適用できるメリットがある。我々のグループでは、ポリシランを化学的に修飾し金属表面に付加させる研究を行ってきた。また、ポリシランなどのσ共役系分子において、π共役系分子と同様にTMR効果を有することを第一原理による電気伝導の計算から予測してきた。 本計画ではTMR素子に応用できる化学構造を持つポリシラン‐メタクリル共重合体の合成し、この材料のTMR素子への応用の可能性を検討することを目的とした。その合成法としては、我々が開発した方法である、ポリシラン自体を光重合開始剤に用いてポリシラン‐メタクリル共重合体を合成する方法を用いた。この共重合体のメタクリル部分に、グリシジル基、スルフィド基、さらにはピレンを導入することで、ポリシラン共重合体と基板とも密着性の向上、ポリシランの耐久性の向上、さらにはポリシラン‐メタクリル共重合体の化学構造の解明を行い、上記TMR素子への応用の可能性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は以下の結果が得られた。 ①スルフィドをもつメタクリレートとポリシランとの共重合体の計画では、共重合体シリコン基板に塗布して形成したフィルムのラマン分光分析を行った結果、スルフィドの硫黄原子が基板に近くに存在することが示唆された。したがって、スルフィド基をポリシランに導入することで基板への密着性が向上することが判明した。 ②グリシジル基をもつメタクリレートとポリシランとの共重合体の計画では、グリシジル基をポリシランに導入したのちに、酸の存在下でアミノ基をもつ有機化合物とこの共重合体との反応を行うことで、エポキシ環が開環して-NH-CH(OH)-CH2-の化学構造の形成を確認した。したがって、アミノ基をもつタンパク質とポリシランとの接続が可能なことを確認した。 ③ピレンをもつメタクリレートとポリシランとの共重合体の計画では、詳しい化学構造が解析しにくいポリシランとメタクリレートの共重合体にピレンを導入して、その発光挙動を観測した。その結果、エキシマ発光が観測されたので、メタクリレートは連続してつながっていることが推測された。また、可視域に強い傾向を有することから発光材料としての応用の可能性を有することが明らかになった。 ④アリル基をもつメタクリレートとポリシランとの共重合体の計画では、アリル基をもつメタクリレートをポリシランと光化学反応を行うと、アリル基は未反応のまま残存した状態で共重合体が形成された。この共重合体とメルカプト基をもつ有機分子とのエン‐チオール反応により、この有機分子とポリシランの間にS-C結合を形成して、ポリシラン‐有機分子のハイブリッド薄膜を形成することに成功した。タンパク質の中にはチオール基をもつアミノ酸が存在することから、この共重合体はポリシランとタンパク質との共有結合を形成するのに応用できることが明らかになった、
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、様々な官能基をもつメタクリレートとポリシランとの共重合体の合成を行うことを主目的とした。その結果、グリシジル基をもつ官能基を導入することに成功して、ポリシランの金属基板への密着性の向上を担保することができた。また、アルリをもつポリシラン共重合体の合成にも成功しており、アリルを通じて様々な機能性を付与することが可能になった。 ただし、これらのポリシランを構成するメチルフェニルシランユニットとメタクリレートユニットとの繰り返し構造やユニットの大きさは依然として不明であり、ポリシランを2個の金属電極にサンドイッチ状に配置するためには、共重合体の局所構造を明らかにする必要がある。そこで、ピレンをもつメタクリレートとポリシランとの光重合を行い、それらの共重合体の合成に成功した。その結果、この共重合体では、ピレンの単分子の375nmにおける蛍光は小さく、二量体による475nmにおける発光は大きかったことから、共重合体内ではメタクリレートユニットが、ある程度集合して存在することが明らかになった。 上記の結果では、共重合体における局所構造の一端を推測されただけであるが、さらに局所構造の分析と制御を通して、共重合体の両末端にメタクリレートが存在し、中央部分にはポリシランドメインが存在する共重合体の合成を進めることが必要になるものと考えられる。 あと新たな展開として、最近、タンパク質などの螺旋状ペプチド構造を有する有機系分子において、スピン分極(部分的なラジカル構造)やトンネル磁気抵抗効果の誘起が確認されていることから、ポリシランにタンパク質分子などを導入して、ポリシラン自体のトンネルMRの性質を向上するも検討していく予定である。この計画は、グリシジルやアリルがタンパク質分子内の官能基であるアミノ基やチオール基との反応性が良好なことから、実現性のあるものと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の状況下で衛生管理を十分に行いながら高分子合成および分析を行っていた結果、当初目標にしていた共重合体の組成や構造の精密な特定には至らなかった。そのために、ポリシランの金属表面への付加や単一分子の電気伝導測定には至らず、この分に計上していた設備費の使用ができなかった。また、このような状況下で、様々なメタクリレートとの共重合体を合成するよりもメタクリレートを固定して、その共重合組成を精密に制御することを目指したので、化学薬品の購入が若干抑制されて当初予算よりも少ない額の使用になってしまった。ただし、その分を計算シミュレーションをするためのワークステーションに当てたので、大幅な予算の積み残しには至らなかった。
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