π共役分子は、優れた光学および電子物性を示す代表的なソフトマテリアルの一つであるが、所望の物性を引き出すためには、合成上の煩雑さや集積構造の制御における困難が伴う。本研究では、研究代表者が近年見出した電子受容性π共役分子とアミンの無触媒クリック反応を基軸として、新奇π電子系化合物およびその集積体の物性探索と構造制御に取り組んだ。本年は、以下に示す2点に注力した。
(1) 電子受容性π共役分子からなる超分子ポリマーを設計・構築し、超分子ポリマーを反応場とするアミンとの無触媒クリック反応について詳細な解析を行った。超分子ポリマーにアミンを添加すると、過渡的な中間体を経由してアミン付加体の超分子ポリマーへと変換される特異な時空間ダイナミクスが観測された。また、超分子ポリマーにジアミンを添加すると、π共役分子の単分散溶液中では見られなかった架橋反応が進行し、またその架橋反応が加速されることを見出した。これは、分子内反応や酵素反応において観測される『近接効果』を超分子ポリマーで実証した初めての例である(Chem. Sci. 2022)。
(2) 超分子集積体を形成しない電子受容性π共役分子と、分子間相互作用を補強するアミン誘導体との無触媒クリック反応により生成するアミン付加π共役分子の自己集積過程を詳細に検討した。アミン付加π共役分子は、核形成-伸長メカニズムによって自己集積体を形成することがわかった。この自己集積メカニズムを踏まえて、非極性溶液中での無触媒クリック反応とシード重合との組み合わせにより、電子受容性π共役分子の精密超分子重合が可能となることを示した(投稿中)。
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