研究課題/領域番号 |
19K05641
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
江口 美陽 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (10520778)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化還元電位 / 層状ケイ酸塩 / 酸化還元性分子 |
研究実績の概要 |
応募者は最近、層状ケイ酸塩表面が鉄錯体分子(カチオン性)の酸化還元電位を低下させる現象を見いだすことに成功した。もしこれがある範囲の分子に見られる一般的な現象であれば、分子の酸化還元電位の制御法として通常行われる「置換基導入(有機合成反応)」を「ケイ酸塩の添加」というよりシンプルな手法に替える可能性を提案できる。そこで、「ケイ酸塩表面における分子の酸化還元電位変化」をより効果的に引き出す方法論を確立することが学術的に重要であると考え、これを本研究の目的とする。この現象の一般性を論じるためには分子の大多数を占める非イオン性分子のケイ酸塩表面における酸化還元特性を観察する必要がある。しかしながら、非イオン性分子のケイ酸塩表面への吸着挙動に関する研究報告は非常に限られており、この点から明らかにする必要があった。本研究では非イオン性分子としてmeso-tetraphenyl porphyrin (TPP)をモデル分子とした。分子・ケイ酸塩・溶媒からなる系内で分子とケイ酸塩を複合化するためには分子と溶媒およびケイ酸塩と溶媒の親和性をより低くする必要がある。これらの親和性とHansen’s solubility parameterを比較した結果、ヘキサンやトルエン中でTPPとケイ酸塩が複合化されることが予想され、これを実験的にも確認した。さらに、この複合化はケイ酸塩構造中のルイス酸がTPPの窒素が持つ非共有電子対を受け取る形で形成していることを明らかにした。すなわち分子が非イオン性であっても構造中に非共有電子対があればケイ酸塩との複合が可能であるということを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はカチオン性分子がケイ酸塩表面でその酸化還元電位を変化することを見出したことに端を発したものであるが、この現象の一般性を論じるためには分子の大多数を占める非イオン性分子のケイ酸塩表面における酸化還元特性を観察する必要がある。しかしながら、非イオン性分子のケイ酸塩表面への吸着挙動に関する研究報告は非常に限られており、この点から明らかにする必要があった。本研究では非イオン性分子としてmeso-tetraphenyl porphyrin (TPP)をモデル分子とした。分子・ケイ酸塩・溶媒からなる系内で分子とケイ酸塩を複合化するためには分子と溶媒およびケイ酸塩と溶媒の親和性をより低くする必要がある。これらの親和性とHansen’s solubility parameterを比較した結果、ヘキサンやトルエン中でTPPとケイ酸塩が複合化されることが予想され、これを実験的にも確認した。さらに、この複合化はケイ酸塩構造中のルイス酸がTPPの窒素が持つ非共有電子対を受け取る形で形成していることを明らかにした。すなわち分子が非イオン性であっても構造中に非共有電子対があればケイ酸塩との複合が可能であるということを示した。
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今後の研究の推進方策 |
非イオン性であるTPPについてケイ酸塩への吸着による酸化還元電位への影響を観察する。TPPは吸着によりメソ置換基が共平面化する柔軟な分子であるが、これに対し、吸着による構造変化の起きにくい剛直なフタロシアニン構造などを有する分子などで同様の検討を行う。さらに、非共有電子対を持たない分子についてもそのケイ酸塩への吸着挙動を確認し、吸着が酸化還元特性へ与える影響の有無を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は主に吸着挙動の実験を進めたので、購入予定だったものを他グループより借用するにとどめたことで未使用金が生じた。この未使用金は今年度の実験補助員の雇用が予定より増えるため、人件費に充てる予定である。
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