研究課題/領域番号 |
19K05643
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
湯葢 邦夫 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (00302208)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 単結晶育成 / 結晶構造解析 / 非化学量論性 / 相安定性 |
研究実績の概要 |
ホウ素次元性ネットワーク構造をもつ希土類-金属(主に遷移金属)-ホウ化物に現れる多様な構造変調に着目し、その局所結晶構造から、特徴的なホウ素次元性ネットワーク構造をもつ希土類-金属-ホウ化物の相安定性を決定する要因を解明することが目的である。 Cu3Au 型もしくはアンチペロブスカイト型構造を持つRERh3Bx 化合物(RE: 希土類元素)において、ScRh3B0.6 化合物では、1/2 1/2 1/2 型規則格子反射に加えて、{111}* 方向にシャープな散漫散乱が現れた。暗視野および高分解能像から、{111} 面上の2次元的なドメイン構造が、散漫散乱の形成の要因になっていることを明らかにした。 YCrB4タイプ (斜方晶系 Pbam) を有するRE(Al, TM)B4 (RE = 希土類元素,TM = 遷移金属) 化合物の結晶育成条件を検討した。Al自己フラックス法により、Moを含有したTm(Al1-xMox)B4 (x = 0.002 ~ 0.05) の結晶育成と物性評価を実施した。Tm-Al-Mo-B系では、x = 0.005と0.01でTm(Al1-xMox)B4が単相で得られたが、それ以外では、Tm(Al1-xMox)B4結晶およびTmB4とMoAlBとの混合相であることを確認した。加えて、x = 0.005と0.01で得られたTm(Al, Mo)B4結晶の硬さを比較したが、Moの含有量が多いほど硬さが高くなることを明らかにした。 Sn/SnCl2 酸化還元挙動を用いて、ナノ金属ホウ化物 MB (M = Co, Fe) の合成に成功した。この合成法では、Snは二つの役割((i) 金属フラックス および (ii) 還元剤)を担っている。ナノ金属ホウ化物を含むコア-シェル構造をもつナノ金属ホウ化物/酸化物の酸素生成特性が優れていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
希土類元素を中心とした特徴的なホウ素次元性ネットワーク構造をもつ金属-ホウ化物の局所結晶構造と非化学量論性の相関についての考察をもとに、金属-ホウ化物の相安定性の挙動について理解を深めている。 本研究の推進に向けて、既に希土類-金属(主に遷移金属)-ホウ化物系で、広範囲にわたる化合物探索を継続中であり、粉末X線回折解析と組織観察の結果をもとにして、ターゲットとなる系の候補(主に2次元、3次元ネットワーク構造)の絞り込みも進んでいる。 局所構造解析では、球面収差補正走査透過型電子顕微鏡 (STEM) 観察から、原子配列と元素分布状態を同時に測定し、原子配列の局所的なゆらぎ(変調構造や構造不整)を直接観察している。同時所得する ABF (環状明視野)- と HAADF (高角環状暗視野)-STEM像のコントラストの比較と分光 (EDS および EELS) 分析の併用から、軽元素(ホウ素)から重元素(希土類)までの識別に成功している。実空間での観察結果と逆空間で得られる異常な回折強度分布情報(超格子反射、衛星反射、散漫散乱など)を相補的に活用して、特徴的な局所結晶構造を明らかにしつつある。 申請時には予想していなかった展開として、ナノ金属ホウ化物で見出された酸素生成のための触媒特性に代表されるような新規物性の獲得にも注力している。 希土類-金属-ホウ化物研究の更なる展開に向けて、国内外(国内4機関:海外4機関)の研究者との共同研究を強力に推進しており、興味深い成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に則り、アーク溶解による多結晶合成とフラックス育成による単結晶育成を並行して実施し、化合物探索を進める。得られた特異な物性の要因解明のために、元素置換を効果的に実施する。 得られた化合物の相安定性および結合強度を評価するにあたり、ビッカース硬さに加えて、熱重量分析(TGA)法で調べる大気中における酸化開始温度を評価指標の一つとして考察する。 試料の連続傾斜回折図形を取得し、再構成する手法である電子回折トモグラフィ解析の確立を進める。この手法は、逆空間情報を三次元的に可視化・解析が可能である。フラックス育成法で得られた単結晶X線回折構造解析が難しい1 μm 以下のナノ試料の定量的結晶構造解析を推進する。 実空間における局所構造解析として、原子分解能HAADF-STEM像に対して、「原子変位解析」を行い、ホウ化物における「原子配列のゆらぎ」について知見を得て、相安定性について考察を進める。原子分解能元素マッピングと併用することで、原子配列レベルでの非化学量論性に関する理解が一層深まる。 2019年度の研究成果である水分解酸素生成におけるホウ化物の触媒特性のような新たな物性獲得のため展開研究にも取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、予備実験で作製した試料を実験に用いたこともあり、試料用原料の購入での支出がなく、予定よりも物品費の未使用が多く生じたため、未使用金が生じた。 次年度では、主に、試料用原料の購入、試料作製装置の消耗品の購入、共用装置の使用料に充当する予定である。
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