研究課題/領域番号 |
19K05646
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
林 宜仁 金沢大学, 物質化学系, 教授 (10231531)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポリオキソメタレート / バナジウム |
研究実績の概要 |
ポリオキソバナデートは、バナジウムの持つ多様な配位環境と酸化数を元に、さまざまな分子構造を自在に構築できる物質である。例えば、四面体構造単位からは、金属イオンに最適な環員数とコンフォーメーションの環状に縮合したバナデート環による無機錯体ができる。四角錐単位から構成される球状または半球状のフラーレンのような球状ポリオキソバナデートは陰イオンを中心に含有している。最密充填構造に見られるような陽イオンと陰イオンの規則正しい配列による酸化物錯体も構築できる。その結果、酸化物と総称的に呼ばれる物質群を組成と構造の確実な分子性化合物として再定義できる。本研究では、四角錐単位を用いて硝酸イオンをテンプレートとするチューブ状分子を単離し二重らせん構造と見なすことのできるナノチューブ分子であることを見いだした。バナジウム錯体の酸化還元状態を制御し、共存イオンによるバナジウム骨格の二重らせん不斉環境の発現の可能性がある。[V18O46(NO3)]5-のらせん骨格を基本とした構造の頂点部分の金属イオンの置換、および、らせん構造の縮合によるピッチ数を伸ばした構造体の合成について検討した。具体的には、合成法を検討することで新しく「らせん」の長さの異なる錯体の構築を検討し1.5ピッチにらせんが延長された構造体についての単離に成功した。バナジウムを基盤としたポリオキソメタレートは、合成時の共存イオン、酸濃度、バナジウムの酸化数、溶媒などの条件により、生成する構造が大きく変化する。これらの条件から「らせん」の巻き数、太さや長さが異なる骨格を持った無機錯体の合成が可能であることを見いだした。また、電気化学特性を検討し、酸化還元状態の異なるV18型錯体の単離についても検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バナジウムと酸素原子から成るチューブ状構造のポリオキソバナデートの合成を目的とし、現在V18およびV24のp二種類の新構造についての検討が可能になった。酸化バナジウム(V), V2O5は、グラファイトと同様のシート状構造を有する。平面状グラファイトシートからカーボンナノチューブが形成されるのと同様に、酸化バナジウムシートからもチューブ状骨格が形成可能であると考えられる。チューブの両末端をピラミッド型のVO5単位でキャップすることでチューブ構造を単離し、純物質としてバナジウム酸化物ナノチューブ分子を実現できる。
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今後の研究の推進方策 |
[V18O46(NO3)]5-のらせん骨格を基本とした化合物と、酸化還元状態の異なるV18型錯体、そして、らせん構造が拡張されたV24型錯体の3種類の新錯体についての光学分割と構造と性質の同定を進める。V24型錯体については、内部に存在する溶媒分子が、熱重量分析の結果から、骨格の酸素原子と反応していることが示唆され、骨格に包接された有機分子が、完全に球体であるポリオキソバナデート骨格から抜け出ることができることを新たに見いだした。そこで、この骨格から有機分子がすり抜ける反応過程をIR等により同定し、骨格酸素原子との反応や、バナジウムイオンの酸化還元状態についての検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
吸収スペクトル装置の納入が遅くなりらせん骨格の分解過程の追跡のための経時時間依存測定に支障があったため、翌年度に計画を遅らせ、新規化合物の合成に専念し、購入予定であった物品の一部を翌年に繰り越したため次年度使用額が生じた。
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