研究課題/領域番号 |
19K05649
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
道見 康弘 鳥取大学, 工学研究科, 助教 (50576717)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リチウム二次電池 / ケイ素系負極 / コンポジット化 / 不純物元素ドープ / 電極/電解質界面 / 体積膨張 / シリサイド / 軟X線発光分光法 |
研究実績の概要 |
これまでにSiにリン (P)をドープするとサイクル寿命が向上することを報告してきた.Li吸蔵時にSiはある特定の方向,すなわち異方的に膨張することが電子顕微鏡により明らかにされてきた.異方的に膨張すると粒子内部の局所に応力が発生し電極崩壊の要因となってしまうため,等方的な膨張が望まれる.しかしながら,膨張の異方性および等方性を定量的に評価した報告例は皆無であった.そこで1粒の粒子に対して充放電試験と光学顕微鏡観察を同時に行える単粒子測定システムに着目し,これを利用すれば膨張の異方性を定量化できると着想した.その結果,SiよりもP-doped Siの方が等方的に膨張することを明らかにした.これはPドープによりSi内部のLi拡散性が向上したための推察される.次に電極レベルでP-doped Si電極の性能向上メカニズムを調べた. Si系負極の劣化要因の一つとして,Li吸蔵の際に形成される様々なLi-Si合金相のうちLi濃度が高く膨張率の大きなLi-rich相が不均質に分布することが挙げられる.これによりSi層内の局所でひずみが蓄積されクラックが生じ,やがて電極崩壊に至ると考えられている.このようなLi-rich相の不均質な分布によるSi負極の劣化はこれまで推測の域を出なかったが,代表者は軟X線発光分光法 (SXES)によるSi層内のLi濃度分布を解明する手法を昨年度に考案し,電解液の違いがLi濃度分布におよぼす影響およびサイクル寿命との関係性を明らかにしてきた.上記の手法に基づきPドープがLi濃度分布におよぼす影響を調べたところ,Pドープにより長いサイクルにわたりLi-rich相の生成が抑えられLi比率の低いLi-poor相が均質に維持されていることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PドープによりSi電極のサイクル寿命が向上するメカニズム解明については当初の予定通り実施できた.他方,第一原理計算に基づきPドープによりSi内のLi拡散係数が向上したメカニズムも解き明かす予定であったが,ワークステーションが故障してしまったため今年度の実施は断念し来年度に行うこととした.Pドープによる性能向上メカニズムをより詳細に調べるために電極レベルだけでなく粒子レベルで解析を試みた.単粒子測定法は既存の分析法であるが,単なる膨張・収縮を観察するだけでなく膨張の異方性・等方性を定量化するためのSiに特化した解析法を考案してきた このように研究を進める中で若干の計画変更があったものの,全体として滞りなく進んでいるので「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
第一原理計算のためのワークステーションを更新し計算を行える環境が再整備されたため,これの遅れを取り戻す.当初はドープ元素の種類や濃度を変えてLi拡散係数やLi移動障壁を算出予定であったが,これらの材料を実際に入手することが困難になってしまったため,代わりにシリサイド内のLi吸蔵サイトやLi移動障壁などを計算する.また,実験的にシリサイド中のLi拡散係数を算出し,これらの整合性を確認する. 2019年度にシリサイド/Siコンポジットの劣化メカニズムを明らかにしてきた.得られた知見に基づき新たな活物質の合成指針を打ち出したので,合成を試みるとともに充放電特性を評価する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で多くの学会がWeb開催となり出張に行かなくなったため次年度使用額が生じた.次年度,論文のオープンアクセス化に関わる費用にも充てる予定である.
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