本研究では,室温から500度までの温度領域で構造相転移を発現せず,かつ負の熱膨張を示すことが知られているリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WP2O12)に着目し,高温その場観察XRDなどを駆使し,リートベルト解析により,温度変化に伴う原子位置の精密化,温度因子による熱振動振幅の定量化を行うことで体積収縮メカニズムを明らかにするものである。さらに ①異なるサイズのイオンで置換することにより熱収縮に寄与する空隙を縮小させる ②化学結合性の異なるイオンで置換することにより,その空隙中での熱振動を抑制する ことで熱膨張を自在に制御できる物質の開発に取り組んだ。 本研究は,結晶中のイオンサイズおよび化学結合の強さという結晶化学的側面から負の熱膨張メカニズムを明らかにするという学術的価値を有し,半導体などマイクロ・ナノオーダーでの制御が求められる電子関連分野の発展にも大きく寄与できるものである。 本研究では,Zr2WP2O12のZrサイトにイオン半径の小さなTiを,Wサイトに酸素との結合エネルギーの小さいMoを添加することにより,熱膨張の制御を試みた。その結果,Tiドープにより負の熱膨張に関与する熱振動空隙の縮小が見いだされ,Moドープにより負の熱膨張に関与する熱振動自体の縮小が明らかとなり,共ドープにより熱振動が制御可能となり,ほぼ熱振動がゼロとなる材料が見いだされた。
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