研究課題/領域番号 |
19K05653
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
稲田 幹 九州大学, 中央分析センター(筑紫地区), 准教授 (40624979)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水熱合成 / 水酸基化学 / 特異結晶 |
研究実績の概要 |
本研究では水熱合成酸化物中の過剰なOH基が特異結晶の生成を促す可能性に着目し、OH基による結晶生成制御、すなわち、ヒドロキシエンジニアリングという新規分野の確立を目指す。 本年度は水熱合成により得られたBaTiO3(BTO)について、(高温)XRD、SEM、ダイナミックTG、in-situ FTIRを用いて構造解析を行い、OH基による結晶安定化の証明を試みた。完全水溶液を出発原料とした場合、立方晶BTO微粒子が生成しOH基が粒子表面に存在した。合成時間を長くすると結晶成長が進行し、c/a比の増加(正方晶化)とOH基量の減少が見られた。一方、EG添加系では、結晶内のOサイトにOHが置換されたOH含有正方晶BTOが生成し、結晶内のOH基は400度焼成後も結晶内に存在するほど安定性が高いことを実験的に証明できた。しかし、長時間合成によりOH基が不安定化する挙動が確認され、時間とともにOH基量は減少し立方晶微粒子が生成した。これらの結果から、水熱合成において結晶に取り込まれたOHは比較的安定に存在しており、準安定相を優先的に生成することが示唆された。これは系全体のエネルギーを低下されるためと考えている。さらに、OH基含有BTOは時間とともにOH基を放出して酸化物形態に変化した。OH基含有BTOよりも完全酸化物の方がエネルギーは小さいため、最終的には最安定相に変化したと考えている。これらの考察はオストワルトの段階則と一致しており、水熱合成を制御する要素になりうると期待できる。 一方で、構造計算においては高温条件において虚数項が現れ、連携研究者との検討を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定ではOH基による結晶安定化の立証を行うのみであったが、新たにオストワルトの段階則に沿った結晶成長メカニズムを明らかにでき、想定以上に研究を進めることができた。BTOだけでなく、TiO2系においても検討を進めており、同様の結果が証明できる手ごたえを得ている。
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今後の研究の推進方策 |
BTOとTiO2の水熱合成において(I)OH基による結晶安定化を証明し、(II)意図的にOH基を導入するための指針を得る。研究進捗に応じて他の系に拡張してOH基のコントロールによる結晶デザインを模索する。 (I)OH基による結晶安定化の立証:今年度BTO系で証明した手法を用い、TiO2系において準安定TiO2結晶相生成とOH基との関係について、実験的、計算科学的な結晶構造解析により証明する。 (II)意図的にOH基を導入するための指針散策:特異結晶の生成には水熱合成時の核生成と結晶成長の制御が重要である。BTO系において、グリコール添加とOH基導入、結晶成長の関係を明らかにし、OHドープ酸化物結晶の設計指針を得る。 研究代表者である申請者が研究を主体的に行い、合成、構造解析は、九州大学大学院総合理工学府の修士学生とともに遂行する。構造計算に関して北陸先端科学技術大学院大学前園グループに協力を仰ぐ。実験補佐としてテクニカルスタッフを雇用し、スムーズな研究進行に努める。
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