本研究では水熱合成酸化物中の過剰なOH基が特異結晶の生成を促す可能性に着目し、OH基による結晶生成制御、すなわち、ヒドロキシエンジニアリングという新規分野の確立を目指した。 R3年度はR2年度に引き続き、SrTiO3について生成物中のOH基と生成相の関係について検討を行った。BaTiO3系ではエチレングリコール添加系においてOH基含有の正方晶単結晶が生成したのに対し、SrTiO3系ではエチレングリコール添加効果は見られなかった。SrTiO3はBa系よりも核生成ならびに溶解・再析出反応が進みやすい傾向が見られ、OH基導入のコントロールができなかったため、Sr-Ba複合系にて合成を行った。XRD、SEM、ダイナミックTG、in-situ FTIRなどの構造解析により、結晶内にOHが存在する固溶体の形成は確認されたが、特異結晶は発達しなかった。R3年度に中央分析センターに導入された高温XRD測定を行ったところ、高温では立方晶から正方晶への相転移が確認された。結晶へのOH導入には水熱合成時の陽イオンとの結合エネルギーが関係しており、生成物の安定性の他、反応系としての安定性を考慮する必要があることが示唆された。 以上、本研究を通して、①結晶内部の水酸基は必ずしも排除される対象ではないこと、②系として安定に酸水酸化物を導入することで特異結晶が得られる可能性があること、③酸水酸化物はオストワルド段階に従って安定相である酸化物に結晶成長すること、を明らかにした。計算科学との協働により、OHが結晶内に取り込まれても安定構造を示すことを明らかにし、さらに、機器分析的な構造解析によりそれを実証できた。
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