ニッケル系二次電池の正極材料として用いられるβ型水酸化ニッケルは、その構造及び特性を異種元素置換によって制御できることを明らかにしてきた。特に層状構造を有するβ型水酸化ニッケルの層間距離の変化についていくつかの重要な知見を得た。まず、Cu置換系で、層状構造の層間距離に対応するピークが2つに分裂する現象を見出し、長短および通常の3つの層間距離が混在する構造を創成できることを明らかにした。Cu置換系では、XRDパターンのピーク分裂現象から、β型構造の基本骨格が変化しない状態で長短の層間距離の2つのピークが明確に表れること、また、Cu置換量の増加と共に層間距離が長いものはさらに長く、また、層間距離が短いものはさらに短くなることを明らかにした。さらに、赤外分光法およびラマン分光法を用いて構造解析を試みたところ、銅置換水酸化ニッケルは、無置換の水酸化ニッケルとほぼ同じスペクトルを示す一方、水酸化銅(Ⅱ)、酸化銅(Ⅰ)と一致するピークは確認できなかったことから、水酸化ニッケルに置換導入された銅は、Cu-OHやCu=Oといった結晶性の高い状態で取り込まれているのではないことがわかった。一方、Mn置換系では、XRDのピーク分裂現象は見られるものの、Cu置換系とは異なり、α型構造に近づく傾向にあることがわかった。さらに、Cu置換系およびMn置換系での知見を基に、ニッケルとは配位数の異なる亜鉛Znを置換すると、通常は熱的にも構造的にも不安定なアルファ型構造が優先的に成長し、その後の熱処理でも構造変化しないことを見出し、正極容量を1.5倍にできるα型構造の安定化および選択的合成に資する合成条件を明らかにした。 また、異種元素置換した水酸化ニッケルの電子導電性を向上させるため、還元剤を含む溶媒熱処理条件でニッケルの一部を部分還元し、一部を金属化できることを明らかにした。
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