研究実績の概要 |
最終年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、学外施設での磁気測定や電圧印加効果を実施することができなかった。このため、所属内で様々な銅水酸化物や配位高分子錯体などの結晶作成のための条件検討を行った。 1.銅水酸化物の結晶育成 これまでの実験研究から、有機スルホン酸を含む銅水酸化物の単結晶育成には加水分解法の他に、一部の試料では拡散法が有効であることを見出している。新しい試みとして、有機カルボン酸などを含む銅水酸化物の結晶育成にトライした。アルカンカルボン酸(CnH2n+1CO2-)を含む銅水酸化物のうち、n = 7, 9, 11誘導体は、20 K付近で強磁性転移とスピングラス的挙動とが共存することを明らかにしていたが、単結晶構造解析に成功していなかった。本研究では、H型セルの一方に酢酸銅、他方にアルカンカルボン酸ナトリウム(CnH2n+1CO2Na, n = 3 ~ 9)を入れ、水を溶媒として、拡散法を試した。n = 5以上において、混合物と思われる青緑色の粉末の生成した。なお、n = 5については、混合物の中に結晶構造解析可能な緑色の柱状結晶を確認した。構造解析の結果、目的の水酸化物ではなく、2つの銅イオンが4つのカルボキシ基で架橋された二量体であることがわかった。今後、条件検討を進め、アルカンカルボン酸を含む銅水酸化物の結晶育成を目指したい。この他、電圧印加効果などを試すため、塩基性硝酸銅の水熱育成にトライした。 2.配位高分子錯体などの結晶育成 L-酒石酸銅の大きな単結晶を得るための条件検討を主に行った他、中心金属イオンをニッケルイオンとするL-酒石酸ニッケルの結晶育成にトライした。また、これまでに単結晶の単離報告例がないコウジ酸の銅錯体の結晶を得るために様々な有機溶媒を用いた拡散法や水熱合成法などにトライしたが、いまのところ、結晶の単離には成功していない。
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