本研究では、バイオミネラリゼーションを模倣したソフト溶液プロセスによって、バイオミネラル類似の階層的なナノ構造を有するバルク体の作製を目指し研究を行った。バイオミネラルの代表例である真珠は、その特異なナノ構造に起因する光の干渉現象によって、鮮やかな構造色を発現することが知られている。2021年度は、バイオミネラルの主成分が主に炭酸塩やリン酸塩であることに注目し、対象とする物質を酸化物からMn系、およびFe系リン酸化合物へと変えて、「ナノ構造体の作製」および「ナノ構造が色彩に及ぼす影響の調査」を行った。 Mn系リン酸化合物の検討では、2020年度にMnCl2および(NH4)2HPO4を含む水溶液にキレート効果を持つクエン酸を添加し結晶成長を制御することで淡いピンク色の0.5 mm程度のMn5(PO3OH)2(PO4)2・4H2O単結晶粒子を得ることに成功した。2021年度では、この知見を基に、長期間の結晶成長を促し、よりサイズの大きい単結晶の作製を目指した。その結果、ナノ構造は持たないものの、透明性が高く鮮やかなピンク色の2 mm程度の単結晶を得ることに成功した。また、Fe系リン酸化合物の検討においては、(NH4)Fe2(OH)(PO4)2・2H2O単相の粒子が得られ、それらに遷移金属イオン(Cu2+、Mn2+、Ni2+、Co2+)を添加することで、Mn2+、Co2+添加系では茶色、Cu2+、Ni2+添加系は緑色へと着色することを見出した。これらの結果は、ソフト溶液プロセスによるナノ構造制御によって、無機化合物の色彩を制御できることを示しており、バイオミネラル類似のナノ構造体を用いた新規な色材・光学材料の開発につながる重要な知見といえる。 上記のMn系リン酸化合物については、研究成果の一部をまとめた論文が海外の学術雑誌Inorganic Chemistryに掲載された。
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