研究課題/領域番号 |
19K05665
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
清野 竜太郎 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (90214915)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膜蒸留 / 炭素化繊維膜 / 海水淡水化 / 多孔質膜 |
研究実績の概要 |
膜蒸留(MD)は疎水性多孔質膜を介した両側に生じる蒸気圧差を駆動力とする膜分離プロセスであり、工場廃熱などが利用できれば非常に低コストで脱塩が可能である。天然繊維の絹や合成繊維のキュプラ等の布繊維を高温で炭化処理すると、布繊維が元来有する高い多孔性を維持したまま、非常に疎水性の高い炭化繊維材料が得られる。本研究では、繊維材料および製布工程が異なる炭素化繊維膜を用いて疎水性、多孔性および膜蒸留測定を行い、炭素化繊維膜の素材および製布工程が膜物性に与える影響について調査した。 炭素化繊維膜は中津山熱処理(株)および新潟県工業試験場で作製されたものを使用した。 比較として様々な孔形成剤を用い、非溶媒相分離法で作製した多孔質ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜や、加熱架橋で作製した多孔質ポリジメチルシロキサン(PDMS)膜も用いた。 疎水性測定では接触角とその経時変化を、また多孔性測定では多孔度および表面多孔度を測定した。疎水性測定において炭素化繊維膜はPVDF膜と比較し高い接触角を示した。また、多孔性測定において炭素化繊維膜はPVDF膜と比較し、極めて高い表面多孔度を示した。炭素化繊維膜は優れた疎水性多孔性材料であることがわかった。 MD測定では、循環型膜蒸留測定装置を作製し、約60 ℃に加温した3 wt% NaCl水溶液を供給液とし、ポンプを用いて膜上を循環させた。 透過液量と時間の間に線形関係が確認された。線形関係の傾きから透過流束を算出した。様々な孔形成剤を用いて作製したPVDF膜の透過流束には、大きな差は確認されなかった。また、PDMS膜では透過流束は確認できなかった。一方、繊維材料に絹、製布工程に編物を用いた炭素化繊維膜の透過流束は、PVDF膜と比較し約5倍の値を示した。これは炭素化繊維膜の高い疎水性および多孔性に起因するものではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭化繊維膜を利用した水処理プロセスの構築を最終目標としている。膜蒸留では膜の表面疎水性の程度と膜の多孔性が水処理性能に大きな影響を与えるため、初年度には、炭化繊維材料の物性評価試験を行う計画を立てた。加えて、炭化繊維材料の膜蒸留への応用について検討することも予定した。 炭素化繊維材料の物性評価に関しては、繊維を高温で炭化処理した炭化繊維材料と自作の多孔性ポリフッ化ビニリデン膜について、予定通り、SEMやTEMによる炭素膜の断面や表面構造の観察、多孔度の測定、接触角測定による膜の疎水性の程度の測定を行うことができた。そして、炭素化繊維膜は、ポリフッ化ビニリデン膜より、非常に高い表面疎水性と多孔性を有していることが確認できた。 膜蒸留測定に関しては、測定を行うための、供給液循環型膜蒸留装置の作製に成功した。膜の上方に送液ポンプを用いて加温した塩水を流し、膜を透過した水蒸気を膜の下側の区画を室温で放置することにより液化させた。回収した液体の量や電解質の濃度を測定することにより膜の脱塩性能を評価した。炭素膜の種類や塩水の温度等の測定条件を変えるなどして膜蒸留測定を行い、膜特性と膜蒸留性能の関係について考察した。また、膜蒸留によく利用されるポリフッ化ビニリデン膜などとの比較検討も行った。 以上の通り、初年度立案した計画事項は、ほぼ完遂できた。
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今後の研究の推進方策 |
炭素化繊維材料の物性評価試験に関しては、引き続き、炭素化繊維材料の基礎的物性として、表面構造や多孔性の評価を行う。加えて、長期使用の観点から、炭素化繊維材料を異なるpHの溶液や過酸化物物質中に浸漬するなどして、炭素繊維膜の物理的及び化学的安定性の評価も行う。 炭化繊維材料は、前述の通り、布繊維の高温処理で作製される。そのため、活性炭などと同様に、賦活化処理を施せば繊維自体を多孔化できると思われる。そうすれば、この炭化繊維を導電性多孔材料として、種々のプロセスでの電極材料としての応用も可能となると思われる。そこで、炭素化繊維自体の細孔評価(比表面積、細孔容積、細孔径分布等)や電極としての電気容量の測定も併せて行う。 炭化繊維材料の膜蒸留への応用に関しては、引き続き、膜蒸留測定を行う。令和2年度は、膜蒸留では、炭素膜の種類や塩水の温度等の測定条件を変えるなどして膜蒸留測定を行い、膜特性と膜蒸留性能の関係について考察する。加えて、疎水性多孔質膜上に親水性膜を付与したワンステップ随伴水処理のための複合膜の作製も行う。親水性膜としては、膜母体としてポリビニルアルコール等の親水性の高い膜を作製する。供給、透過液中の電導度や油分濃度を測定することにより脱塩率、脱油分率を見積もり、膜蒸留による随伴水処理の可能性について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初計画で消耗品として購入を予定していたカラムが、研究室で保管していたもので代用ができた。また、循環型膜蒸留装置の作製上必要だった送液ポンプが、予定より安価で購入できた。一方で、多孔質膜の作製や調整の上で必要となった乾燥装置を膜作製用器具として購入した。以上、総合的に、見込んだよりも安価に研究が進んだため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)次年度使用額は、令和2年度に消耗品費と併せて使用する。
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