研究実績の概要 |
遮熱顔料とは,赤外領域の光の反射特性を利用した蓄熱防止を目的とする機能性顔料のことである.一般に,遮熱効果は色相が白色に近いほど高く,黒色に近いものほど低くなる.既存の黒色遮熱無機顔料としては,Fe2TiO4や(Fe,Cr)2O3などが知られているが,Fe2TiO4は遮熱性能が不十分であり,(Fe,Cr)2O3は有害な元素であるクロムを含んでいることが課題となっている.従って,黒色を呈しながらも近赤外領域の光を効率よく反射することのできる遮熱特性を持った新規顔料の開発が求められている.そこで本研究では,可視光線を吸収して黒色を呈するにもかかわらず,近赤外線を高反射して,温度上昇を抑制する新しい黒色遮熱顔料の開発を目指した. 令和2年度は,遮熱顔料の母体としてLi2MnO4,CaZrO3, 及びCeVO4に着目した.これらの化合物やこれらに他元素をドープした各種固溶体を合成し,得られた試料の色彩を評価した.これらの化合物のなかで,CeVO4はCe4f-V3d軌道間の電荷移動遷移により,波長690 nmより短波長の光を吸収し暗褐色を呈することがわかった.さらに,CeVO4の色をより黒色に近づけることを目指し,Ce3+サイトを種々の希土類金属イオンで部分置換したCe0.90RE0.10VO4(RE3+ = Y3+, La3+, Pr3+, Nd3+, Sm3+, Eu3+, Gd3+, Tb3+, Dy3+, Ho3+, Er3+ , Tm 3+, Yb3+, Lu3+)を合成した.得られた試料の色度座標と遮熱特性(日射反射率)を評価した結果,Ce0.90Gd0.10VO4において近赤外光の反射率を保ちながらも純粋な黒色に近づくことを明らかにした.
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