研究課題/領域番号 |
19K05675
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
白上 努 宮崎大学, 工学部, 教授 (60235744)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水の酸化反応 / 人工光合成 / 典型元素ポルフィリン / 光触媒 / 一重項酸素 / N-混乱ポルフィリン |
研究実績の概要 |
昨年度の研究により、ポルフィリン(tpp)以外の配位子として、ポルフィリンの可視光吸収と比較して、より長波長側に吸収(700 nm付近)を有するN-混乱ポルフィリンを配位子とするゲルマニウム錯体(GeNcp)の合成に成功し、本錯体が水の過酸化水素への光反応を誘起できることを明らかにした。 今年度も引き続きGeNcpにおける詳細な光物性を検討した。水の酸化反応には、錯体自身の酸化還元電位の検討が必要になる。詳細な電気化学測定の結果、従来のGetppよりも卑側に還元ピークが新たに出現した。酸化電位の測定からGeNcpのHOMO軌道のエネルギー準位が推定でき、新たな還元電位がLUMOのエネルギー準位と仮定すると、GeNcpの700 nm付近の吸収帯のエネルギーに相当することがわかった。この結果は、DFT計算の結果からも支持された。以上のことから、GeNcpの各分子軌道のエネルギー準位ならびにGeNcp特有の吸収帯の起因について明らかにすることができた。さらに、GeNcpを酸素分子存在下、可視光照射すると、活性酸素の一つである一重項酸素が生成することも見いだし、GeNcpが多岐にわたる光増感剤として機能することを明らかにすることができた。 一方、水の酸化反応場として、粘土ナノシート(スメクトンSA; SSA)上での光反応も検討している。昨年度は、カチオン性Geポルフィリン錯体のSSA上での光化学挙動を検討したが、今年度は、カチオン性Snポルフィリン錯体での検討を行い、Ge錯体と同様にSSA上にて電子供与体であるアスコルビン酸との光電子移動反応が進行することを明らかにした。このことから、リン、ゲルマニウム、スズを中心元素とする典型元素ポルフィリン錯体の粘土ナノシート上での光化学挙動の一般性を明らかにする手がかりを得たと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、人工光合成の構築の観点から水の光酸化反応を中心とした典型元素ポルフィリン錯体の光触媒機能を明らかにすることにある。昨年度から新たにポルフィリン以外の配位子として、N-混乱ポルフィリン配位子による新規GeNcpが水の過酸化水素への光触媒として機能することを見いだし、それに引き続き、GeNcpの電気化学挙動、分子軌道のエネルギー準位等の分子機能に関する詳細な情報を得ることに成功している。この結果は、計画当初では予期できない研究成果と考えている。 最終年度に向けて、リン、ゲルマニウムおよびスズを中心元素とする典型元素ポルフィリン錯体の光機能について総括した研究が推進できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
リン、ゲルマニウムおよびスズを中心元素とする典型元素ポルフィリン錯体の光機能について、水の光酸化反応、粘土ナノシート上での光化学挙動および当初計画にはない一重項酸素生成反応の3つの光機能に集中して、研究を推進する予定である。 これらの結果を通して、典型元素ポルフィリン錯体が有する光化学反応の特徴付けを行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、学会発表への旅費の未使用等、当初の見積もり計画と差が生じたため。 次年度の研究計画で行う消耗品の一部として使用する計画である。
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