研究課題/領域番号 |
19K05677
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
倉持 悠輔 東京理科大学, 理学部第二部化学科, 助教 (30457155)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 二酸化炭素還元 / 金属錯体 / ポルフィリン / 光反応 / スペシャルペア / レニウム錯体 / マンガン錯体 / 閉環メタセシス反応 |
研究実績の概要 |
可視光領域にRuやIrなどの光増感剤錯体に比較して10倍以上の非常に大きな吸収帯を持つポルフィリンを、逆電子移動抑制が期待される天然のスペシャルペア類似のポルフィリンダイマー構造とすることで光触媒反応の優れた光増感剤として利用する。 本年度は、イミダゾリル亜鉛ポルフィリンのメソ位にフェニレン基を介して鈴木・宮浦カップリング反応によって2,2’-ビピリジン配位子を結合させ、ここに二酸化炭素還元触媒として知られるRe(I)及びMn(I)カルボニル錯体を導入することに成功した。合成したRe やMn錯体を導入したイミダゾリル亜鉛ポルフィリンは、狙い通りイミダゾールとZnの相互的配位結合により天然のスペシャルペアに類似したダイマー構造を形成した。比較的配位力の弱いジメチルアセトアミド溶媒中トリエタノールアミンを電子源とし、ポルフィリン=Re錯体ダイマーを用いて光化学的二酸化炭素還元反応を行ったところCOを選択的に生成し、その触媒回転数は光照射4時間でReあたり25以上と比較的高い触媒活性を示すことが分かった。一方で、ポルフィリン=Mn錯体ダイマーでは、Grubbs触媒を用いた閉環メタセシス反応によってポルフィリン同士を共有結合により構造固定化に成功し、配位性のジメチルスルホキシド(DMSO)中でもダイマー構造を維持できることが分かった。メタセシス反応前後のサンプルにてDMSO中にて光化学的二酸化炭素還元反応を行ったところ、メタセシス反応で構造固定化したポルフィリン=Mn錯体ダイマーの触媒回転数が、構造固定化していないDMSO配位ポルフィリン=Mn錯体モノマーよりも向上することが観測され、ダイマー構造が触媒活性を向上させる効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3位にボロン酸エステルを有する2,2’-ビピリジン (bpy) 配位子の効率的合成法を確立し、これを鈴木・宮浦カップリング反応によってイミダゾリル置換亜鉛ポルフィリンにフェニレン基を介して導入することに成功した。bpy部位にRe(I)及びMn(I)カルボニル錯体を導入し、精製法を種々検討することでポルフィリン=金属錯体を純度良く得ることができた。得られたポルフィリン=金属錯体も、非配位性溶媒ではイミダゾールとZnの相互的配位結合により狙った構造のポルフィリンダイマー構造を形成することを確認した。また、ポルフィリン=Re錯体ダイマーを用いて光化学的二酸化炭素還元反応も行ったところ、触媒的に反応が進行しCOを選択的に与えることが分かった。またポルフィリン=Mn錯体ダイマーの合成も脱カルボニル反応を誘起する紫外光を避けながら注意深く合成することで純度良く得ることができ、こちらについてはGrubbs触媒を用いた閉環メタセシス反応によって配位結合で形成されていたダイマー構造を共有結合にて固定化することにも成功した。ポルフィリン=Mn錯体ダイマーにおいては、メタセシス反応前後のサンプルをあえて配位性の溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)中で光化学的二酸化炭素還元反応を行うことでダイマーとモノマーの構造による活性の違いを調査した。その結果ダイマー構造を形成することにより触媒回転数が向上することが確認できた。 本課題では目的触媒の合成が一番のネックであったが、目的のポルフィリン=金属錯体触媒を2種類合成することに成功して光化学的二酸化炭素還元反応評価も行うことができた。またこれにより合成の基礎的ノウハウも蓄積することができたため、本研究課題は順調に進行していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
ポルフィリンダイマーに触媒となるRe及びMnカルボニル錯体を導入することに成功したが、今回合成したポルフィリン=金属錯体複合体は有機溶媒への溶解性が著しく低いという問題があることが分かった。特にポルフィリン=Re錯体はGrubbs触媒による閉環メタセシス反応を行うためのジクロロメタンなどの有機溶媒にまったく不溶であり、ダイマー構造の固定化ができなかった。共有結合で構造固定化を行わない場合、光化学的二酸化炭素還元反応でよく用いられる弱配位性のジメチルアセトアミド中においてもダイマー構造の一部がモノマーへと開裂する挙動が見られた。また、先々に計画している異種金属錯体を用いるヘテロダイマーの構築を行った際にはダイマーのメタセシス反応による構造固定化は必須であるが、そのためにもGrubbs触媒による閉環メタセシス反応が行われるジクロロメタンなどの有機溶媒への溶解性は重要である。そこで今後は、まずイミダゾリル部位の置換基をかさ高い置換基へと変換していき様々な溶媒への溶解性向上を目指していく。その後電気化学的測定や分光測定などの基礎物性の調査を行いつつ、ポルフィリンとbpyの架橋部位の長さをさらに変えたポルフィリン=金属錯体触媒を合成していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で必須であった研究室保有の瞬間マルチ吸収分光装置が壊れたため、購入設備を変更した。初めは1700000円であったが割引があり5000円が次年度に持ち越しになった。本年度は試薬等を学内予算で補填したため、持ち越し分はその分の試薬購入にあてる。
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