研究課題/領域番号 |
19K05684
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
藤本 真司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (40415740)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バイオマス / セルロース / グルコース / 水熱処理 / 自己触媒 |
研究実績の概要 |
バイオマスを比較的低温度で空気酸化した後に水熱処理することで、バイオマスの構成分の一つであるセルロースを加水分解する自己触媒水熱加水分解法のメカニズム解明を検討している。今年度はバイオマスの主な構成成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンの空気酸化特性、酸性官能基量の変化について検討した。 まず、試薬のセルロース、ヘミセルロース、リグニン、および実バイオマスのスギに対して、空気雰囲気化での酸化特性を調べた。180~200℃の空気酸化での重量減少はヘミセルロースが最も大きく、次いでリグニンであった。セルロースではほとんど重量減少は見られなかった。また、NREL法による構成糖分析からもセルロースが保持されていることが示された。そのため、この温度域での空気酸化では、主にヘミセルロースとリグニンにおいて一部の構造変化が生じている可能性が示された。 次に酸性官能基であるヒドロキシ基、ラクトン基、カルボキシ基を対象としてBoehm滴定法で定量した。セルロース中の酸性官能基はヒドロキシ基が主であり、ラクトン基やカルボキシ基はほとんど含まれないことを確認した。また、セルロース中の酸性官能基量は200℃の空気酸化によりほとんど変化しない、あるいは若干減少する傾向が確認された。一方、ヘミセルロースではヒドロキシ基は65%程度で、ラクトン基が約7%、カルボキシ基が約28%であった。ヘミセルロースを200℃で空気酸化すると酸性官能基量は3倍以上に増加した。特にカルボキシ基の増加が顕著であり約50%を占めた。以上のことから、セルロースの加水分解触媒として機能する酸性官能基は、200℃程度の空気酸化で、セルロース以外の構成成分において増加しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バイオマスを空気酸化することで増加すると考えられる酸性官能基については、Boehm滴定法で定量できることを確認して、分析手順を確立した。また、NREL法による構成糖分析も実施して、構成成分の変化についても調べた。これらにより、セルロース、ヘミセルロースについては空気酸化による酸性官能基量や構成成分の変化を調べることができ、加水分解触媒として機能する酸性官能基はセルロースではほとんど増加せず、ヘミセルロースにおいて大幅に増加することを確認した。しかしながら、もう一つの主要な構成成分であるリグニンに関してはすでに試薬として供給が終了しているものが多く、今年度はアルカリリグニンしか入手できなかったため、Boehm滴定法で直接的に定量することができなかった。ただし、差分により間接的には推測することはできた。
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今後の研究の推進方策 |
空気酸化したサンプルを水熱処理することにより得られる糖類やフルフラール類、有機酸等の生成物量の経時変化を反応速度論的に解析して反応速度パラメーターを導出する。これにより、セルロースから過分解物までの一連の分解反応の進行状況を推定し、水熱処理における反応のメカニズムを解明する。また、得られた速度パラメーターを用いた反応シミュレーションを実施して最適な処理条件を導き出すことを目指す。また、木質バイオマスに限らず、構成成分比率の異なる草本バイオマス、農業残渣等のバイオマスについてもシミュレーションと実験を実施して、理論計算結果と実験結果との比較を行い、シミュレーションの精度を確認するとともに、本方法を適応可能なバイオマスの種について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
情報収集のために国内外へ調査に行くこととしていたが、初年度は国内学会および文献での調査を主として行ったため、外国旅費について使用しなかった。また、論文への取りまとめに時間がかかっており、論文執筆および投稿に関する予算も使用できなかった。これらは次年度に繰り越して実施する予定である。また、実験を加速化させるため、実験補助員を雇用する。
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