研究課題
本研究では、生命システムの解明ツールとして利用可能な動的化学イメージング技術を実現することを目的とし、高速かつ高解像度の新しい電気化学イメージング法の確立に挑戦している。そのための方法として、クローズドバイポーラ電極アレイを用いて、従来の電極アレイ型電気化学イメージング技術において高解像度化を妨げている「配線問題」と「測定装置のチャネル数限界の問題」を同時に解決する。このイメージング法が確立すれば、ラベルフリーに直接的かつリアリタイムに1細胞レベルの局所領域の化学情報を可視化することができるようになり、細胞間の化学反応ネットワーク解明などが可能な新たな顕微鏡システムを提供できる。2019年度の研究では、高密度バイポーラ電極アレイの作製方法の開発を進め、試作したアレイを用いて、ヒト由来乳癌細胞株MCF-7の細胞塊の呼吸活性のイメージングを行うことができた。これは、当初目的としていた、生きている細胞近傍の動的化学イメージングの最初のデモンストレーションであり、さらなる展開に向けての検討を進めている。そのひとつであるドパミンイメージングのための計測システムとして、ルテニウム-酸化型グルタチオンによるカソーディック電気化学発光(ECL)と組み合わせる方法を検討し、ドパミンの定量ができることを示した。また、ファイバー電極の利用可能性についても示すことができ、今後の遠隔型や拡大型のイメージングシステム実現に向けてさらに検討を進める。
1: 当初の計画以上に進展している
高密度バイポーラ電極アレイを実現する方法を複数開発し、当初目的としていた、生きている細胞近傍の動的化学イメージングのデモンストレーションを行うことができた。さらに、ドパミンイメージングのための計測システムの検討が大きく進展した。具体的な進捗状況は以下の通り。①高密度バイポーラ電極アレイの作製方法の検討:アレイの作製基板として、微細孔の貫通した膜もしくは板状の構造体である、細胞培養用トラックエッチドメンブレン、キャピラリープレート、多孔質アルミナ膜を検討した。孔に導電性物質を埋め込む方法として、金酸を還元して化学析出させる方法、カーボンペーストや金属ペーストを詰める方法を検討した。その結果、比較的簡易に再現性良く高密度バイポーラ電極アレイを作製できる方法として、トラックエッチドメンブレンの片面を金酸、別の片面を還元剤に接触させることで、孔の中に金を析出させる方法により、平均35ミクロンピッチの電極アレイを形成できることが分かった。②計測システムの開発:ドパミンを計測するためのシステムとして、ルテニウム-酸化型グルタチオンによるカソーディックECLと組み合わせる方法を検討した。各種条件最適化の結果、解明すべき不明な現象が残っているものの、50-250μMの範囲でドパミン濃度上昇に伴い、ECL輝度が上昇する結果が得られた。さらに、樹脂中に複数の導電体を埋め込んだファイバー電極を利用するシステムについても検討を進め、再現性に問題があるものの、バイポーラ電極アレイとして機能することが分かった。③デモンストレーション:平均35ミクロンピッチの電極アレイでフェリシアン化物イオンが流れる様子のイメージングや、MCF-7の細胞塊の呼吸活性のイメージングに成功した。
最終目標である生命システムの解明ツールとして利用可能な動的化学イメージング技術の実現に向けて、2019年度に引き続き、今後2年間、バイポーラ電極アレイの高密度化、ターゲットとする現象を高速かつ高解像度に再現性良く捉えられる計測システムの開発および生命現象のイメージングのデモンストレーションを実施する。2020年度は、バイポーラ電極アレイの高密度化は、直径10μmの孔が規則的に並んでいるキャピラリープレートにカーボンペーストを詰め込む方法の検討を進める。これにより、ピクセルの揃った素子で、金属電極では検出できないタイプの生体関連物質の検出が可能になる。また、プルシアンブルー含有カーボンペーストを利用することにより、過酸化水素検出用の触媒電極として機能させることもできる。過酸化水素は生命活動と関連する活性酸素種であるだけでなく、脳内で重要な働きをするグルコースやグルタミン酸などを検出するためのバイオセンサの中間生成物でもあり、各種酵素と組み合わせることにより、イメージング可能な物質を広げることができる。計測システムはドパミン検出系の検討をさらに進めるとともに、蛍光イメージングなどと組み合わせる方法についても検討する。カーボンファイバー電極の利用は、細くファイバーを引いても電気的導通を保てる方法を主に検討し、再現性の良い素子にしてゆく。2021年度には神経細胞からのドパミン放出のイメージングをデモンストレーションができることを目指す。
予定より安価に購入できた物品があったため、年度内に計画した研究に必要な経費をすべて執行して、最終的に56,320円次年度使用額となった。2020年度に研究を加速するために必要な試薬等の消耗品の購入費として使用する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 12件、 招待講演 1件) 備考 (3件)
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https://researchmap.jp/read0155030
http://www.che.tohoku.ac.jp/~bioinfo/
https://www.che.tohoku.ac.jp/~est/index.html