研究課題/領域番号 |
19K05688
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
堀内 宏明 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00334136)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 一重項酸素 / 光増感剤 / 近赤外 / 光線力学療法 / 光線力学診断 / pH / 蛍光 |
研究実績の概要 |
本課題では、高いがん選択性を有する光線力学療法および光線力学診断に用いる光増感剤を開発するために、低pH条件でのみ近赤外吸収特性、蛍光特性、一重項酸素の光増感特性を有するトリプルpH応答性光増感剤の開発を目的としている。本年度は優れたトリプルpH応答機能を付与するために、まずはトリプルpH応答機能の解明を行った。 まずプロトタイプ型トリプルpH応答性光増感剤であるAI4Pのプロトン化過程を明らかにするために、紫外可視吸収スペクトルのpH応答性を詳細に解析した。その結果、プロトン化過程は二つの過程に分けられ、2段階目のプロトン化により近赤外吸収が出現することが明らかになった。AI4Pは4個のアミノインドール(AI)ユニットを有するポルフィリンであり、プロトンが付加できる部位が6か所(4か所のAIユニット中のアミノ基と、2か所のポルフィリンのピロール窒素)ある。AI4Pのプロトン化体を帰属するために、コントロール分子としてアミノ基を除いた、4個のインドール(I)ユニットを有するI4Pを合成し、そのプロトン化による紫外可視吸収スペクトルの変化を調べた。この変化をAI4Pのものと比較することにより、AI4Pのプロトン化は、第1段階として、4か所のアミノ基がプロトン化したAI4P-H44+が生成し、さらに低pHになると、ポルフィリン中心もプロトン化したAI4P-H66+が生成することを明らかにした。この6価のプロトン化体が近赤外吸収特性を示すだけでなく、近赤外蛍光特性、一重項酸素の光増感特性を示すトリプルON状態にあることを明らかにした。 また、このトリプルpH応答挙動の詳細を定量的に解析し、がんの光線力学診断・光線力学療法に対して有望であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では、我々が見出した低pH条件でのみ近赤外吸収特性、蛍光特性、一重項酸素の光増感特性を有するトリプルpH応答性光増感剤について、コントロール分子との比較を行うことにより、pH応答メカニズムを明らかにし、トリプルpH応答に不可欠な分子構造的要素を明らかにすることを目的としていた。 当初の研究計画ではコントロール分子として3種類の分子を提案していたが、最初に手掛けたアミノ基を削除した分子(I4P)を合成し、比較検討したことにより当初予定していたトリプルpH応答に不可欠な分子構造的要素を明らかにすることに成功した。 これらの成果により、トリプルpH応答特性の改善や、生体応用するために必要な分子修飾を行うための方針をえることができたため、順調に研究が進んでいると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた知見に基づき、トリプルpH応答機能の向上および、生体系に適用を目指した開発を行う。 まずトリプルpH応答機能の向上のためには、まず従来のAI4Pのプロトン化体(AI4P-H66+)が高い効率で一重項酸素を生成するメカニズムを明らかにする必要がある。コントロール分子であったI4Pでも低pH環境で近赤外吸収を示したが、AI4Pとは異なり一重項酸素を生成効率はほぼゼロであった。このため、トリプルpH応答機能を向上させるためにはAI4P-H66+の光物理過程などを明らかにしたうえでトリプルON状態であるために必要な分子構造的要素を明らかにする必要がある。現時点でのAI4PおよびI4Pの分子構造の違いから、AI4P-H66+のみが一重項酸素を生成する原因の一つとして、AI部位とポルフィリン部位がアミノ基による立体障害により平面構造をとりにくいことが挙げられる。これを明らかにするために、アミノ基の置換位置を立体障害の生じにくい6位に変更し、そのpH応答挙動を明らかにする。この知見に基づき高性能分子の設計を行う。 次に、トリプルpH応答性光増感剤を生体系に適用するために、親水性ユニットや分子標的ユニットの導入を目指す。従来のAI4Pでは、主なポルフィリンの置換位置である5,10,15,20位の全てにAI部位を導入しているため、他の機能性ユニットを導入することが困難である。そこで機能性ユニットの置換位置を確保するために、まずはAI部位数の低減を試みる。AI部位数の異なる化合物群を合成し、それらのpH応答挙動を明らかにすることにより、トリプルpH応答特性に必要最小限のAI部位数を決定する。これにより空いた置換位置に対して、次に親水性ユニットを導入し、培養細胞などを用いた実験に十分な水溶性を獲得することを目的とする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行に必要な装置の一部が故障し、修理依頼を出したが、修理が年度をまたいでしまったため、残金が生じた。 本年度に修理が完了した際に残金を使用する予定である。
|