研究実績の概要 |
本課題では、高いがん選択性を有する光線力学療法および光線力学診断に用いる光増感剤を開発するために、低pH条件でのみ近赤外吸収特性、蛍光特性、一重項酸素の光増感特性を有するトリプルpH応答性光増感剤の開発を目的としている。本年度は高機能化・実用化のために、トリプルpH応答性光増感剤を薬剤キャリアと複合化するための指針を得ることを目的とした。 トリプルpH応答性光増感剤をガン細胞内の酸性環境であるリソソーム内に選択的に輸送する薬物キャリアと複合化させるためには、トリプルpH応答性光増感剤に何らかの化学反応性を有するアンカー基を導入する必要がある。従来型のトリプルpH応答性光増感剤ではポルフィリンにとって置換基を導入しやすい5,10,15,20位の4か所全てにpH応答性消光剤であるアミノインドール基が置換されているため、このままではアンカー基の導入は困難である。昨年の成果としてアミノインドール基を1個に減らしてもトリプルpH応答性を維持していることが明らかになっているため、残りの3か所に薬剤とのリンカー基の導入を試みた。リンカー基としてエーテル結合、エステル結合、アミド結合でメチル基を導入した結果、優れたpH応答性を維持できていることを明らかにした。 次に、トリプルpH応答性光増感剤がリソソームに輸送された後に光活性を示す化学種に変換できるかを調べた。リソソームの内水層はpHが5程度と酸性環境にあることが知られているが、リソソームは脂質二分子膜で覆われており、疎水性の高いポルフィリン誘導体がもし疎水環境である脂質二分子膜に局在した場合には光活性を示さない。そこで、疑似生体膜であるリポソームを用いた評価を行った。その結果、酸性にしたリポソーム水溶液中ではpH応答性光増感剤がプロトン化することにより親水性が向上し、水層に移動することにより光活性を示すことが明らかとなった。
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