研究課題/領域番号 |
19K05692
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
横川 隆志 岐阜大学, 工学部, 教授 (90242304)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メタン生成アーキア / 無細胞タンパク質合成系 / tRNAの不活性化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はアーキアのタンパク質産生系を構築することにある。昨年度、今後の実験が通常の実験室の環境で行えることを期待して好気的に成育する好酸性の鉄酸化アーキアFerroplasma acidiphilumの系について試行錯誤してきたが、得られる菌体量が十分ではなく、F. acidiphilumのタンパク質産生系を構築することについては断念するに至った。 一方、無酸素環境下のみで成育するMethanosarcina acetivoransについては、1.5リットルのスケールで培養し、嫌気的に細胞抽出液を調製する工程を確立し、合成させたChloramphenicol acetyltransferaseの活性を比色定量することで簡便にタンパク質合成活性を評価する一連の系をルーチン化することができた。様々な条件下でM. acetivorans細胞抽出液を調製し、そのタンパク質合成活性を比較してみたところ、あらためて活性が安定していないことが明らかとなった。例えば、大腸菌では活性の強い細胞抽出液を得るために培養液の濁度を制御して集菌するが、M. acetivoransの場合、集菌時の濁度と細胞抽出液のタンパク質合成活性の相関があまり高くなかった。このことは、集菌操作を含めた操作に活性を左右する要因が存在することを示唆している。相関は弱いものの集菌時の濁度が大きい方が抽出液の活性が高い傾向が見られたが、その濁度が1.0を超えた時は活性が著しく低下していた。このケースは、昨年度報告したtRNAの不活化が原因と思われた。不活性化したtRNAは電気泳動上の移動度が変化するので、ハイブリダイゼーションによりtRNA種の特定を試みた。その結果、tRNAの不活化は、程度の差こそあれ、tRNAの種類によらず認められた。現在、tRNA不活性の原因となる遺伝子と再活性化に関する遺伝子の特定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同じような条件で調製したM. acetivorans細胞抽出液でもタンパク質合成活性が安定しないことが判明したおかげで、調製手順に活性を左右する要因、おそらく酸素の混入について検討する必要性を認識することができた。 昨年度見いだした活性低下の大きな原因となるtRNAの不活性化については、tRNAの不活性化をノーザンハイブリダイゼーションや質量分析を用いて評価する方法を確立した。tRMAが不活性化したままでは細胞の生存に問題が生じるので何らかの再活性化因子が存在する可能性が高い。不活性化と再活性化に関わる遺伝子が特定できればメタン生成アーキアの成育制御に結びつき、大きなインパクトを与える可能性を秘めている。
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今後の研究の推進方策 |
M. acetivorans細胞抽出液を調製する手順において、酸素が混入するリスクがある手順を洗い出し、より酸素が混入するリスクが減る手順に改善するとともに、酸素が混入したかどうかを検出するシステムを構築する必要がある。 tRNAの不活性化が酸素の混入と関連しているか調べるために、故意に酸素を混入させた時に、tRNAの不活性化が起こるか調べる。またtRNAの不活性化と再活性化に関わる遺伝子を同定し、それらの遺伝子の破壊株を作製することによって、tRNAの不活性化の仕組みがM. acetivoransを含めたメタン菌の成育制御機構と結びついているか検討する。 M. acetivoransを形質転換し、生細胞内でタンパク質を産生させる試みについては、徐々に形質転換の成功率が高まっているものの、まだ十分とは言えない。さらに手順を洗練させて形質転換効率を高めたい。M. acetivoransの形質転換法の確立は遺伝子破壊株の作製にも関わる重要な方法なので、なんとか期間内にルーチン化させて、生細胞タンパク質産生系につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により研究室がおよそ2ヶ月間閉鎖された関係で、実験が十分に行えなかった。新たな発見など成果は見られるが、消耗品類が予定より消費しなかったためである。次年度に新たに大学院生を研究に加えて研究を加速させる予定で、次年度に繰り越した消耗品費を追加したい。
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