研究実績の概要 |
本研究の目的はアーキアのタンパク質産生系を構築することにある。無酸素環境下で成育するMethanosarcina acetivoransについては、1.5リットル培養で得られた菌体から嫌気的に細胞抽出液を調製する工程を確立し、合成させたChloramphenicol acetyltransferase (CAT)の活性を比色定量する手法を確立した。CATの活性測定の原理は、生成したCoAのチオール基を5,5’-Dithiobis(2-nitrobenzoic acid) (DTNB)と反応させ、経時的に412 nmの吸光度を測定することでCATの合成量を産出するものである。この定量法でタンパク質合成活性を測定できるようになったが、活性の高い細胞抽出液を再現性よく調製することはかなわなかった。 それには二つの原因が考えられた。一つはM. acetivoransの増殖が定常期に入るとtRNAが不活化されてしまうこと、もう一つは、酸素の混入により某かの因子が酸化され不活化されてしまうことである。 不活化tRNAを再活性化する酵素については、ゲノム情報から探索した結果、候補遺伝子が見つかり、大腸菌で過剰産生させた候補タンパク質は、不活化tRNAを再活性化した。 酸素の混入については、還元剤の添加の効果を調べた。いったん酸素雰囲気下で開けた細胞抽出液は、タンパク質合成活性を失うが、Tris(2-carboxyethyl)phosphine (TCEP)を添加するとその活性が回復した。ただしTCEPとDTNBが反応していることも考えられたので、ウェスタンブロッティングを行って確かにタンパク質合成活性が回復していることを確かめた。この結果から、酸化による失活は、スルホキシド化ではなく、ジスルフィド結合形成によると考えられた。 これらの知見は、仮に細胞抽出液の活性が減弱しても再活性化することができることを示唆しており、メタン生成アーキアの無細胞タンパク質合成系を構築する上で有力な情報が得られたと考えている。
|