研究実績の概要 |
ヒトインドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ1(IDO)は, ヘム酵素として唯一の2原子酸素添加反応である, トリプトファン(Trp)主要代謝経路の最初の反応を触媒する誘導タンパク質である. この酸素添加反応は収支として電子とプロトンを必要としない, ヘム酵素としては特異な反応で, 反応機構全容は不明である. 反応機構を解明する上で反応途中に現れる反応中間体の配位構造と基質構造を検出することが大きな手がかりとなるが、いくつかのステップについて報告があるだけである。そこで本研究では, ストップトフロー共鳴ラマン分光法を用い, これまで検出できていない‘反応の一部始終’を, 振動スペクトルとして検出することにより, IDO反応機構全容の解明を目指している. 酸素を基質とする酵素は酸素に対し高い親和性を持ち、反応開始を制御するためにstopped-flow装置に高い嫌気性が要求される。また、ラマン測定では同位体酸素やTrpを用いてスペクトルを得た上で同位体差スペクトルを計算し、基質に由来するラマンバンドの帰属を行う。さらに、微弱なラマン散乱光から解析可能なスペクトルを得るためには積算が必要である。2019年度においては、これらの条件を満たしIDOの酵素反応の開始を制御可能な嫌気チャンバーをstopped-flow装置に組み合わせることに成功した。この装置を用い、酵素反応中のIDOについてStopped-flow吸収測定及びラマンスペクトル測定、さらには同時測定を行うことができた。同位体酸素を用いた測定では、既報スペクトル種について同位体シフトの検出に成功した。
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