研究課題/領域番号 |
19K05699
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
齋藤 良太 東邦大学, 理学部, 教授 (90327974)
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研究分担者 |
後藤 勝 東邦大学, 理学部, 准教授 (80379289)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リシン毒素A鎖阻害剤 / プテリン / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
Ricin toxin(RT)はトウゴマの種子から単離される非常に高い毒性を持ったリボソーム不活性化タンパク質である。RTはA鎖(RTA)とB鎖(RTB)から構成されており、RTAがrRNAの特定のアデニンを加水分解するN-グリコシダーゼ活性により毒性を発現している。本研究ではこのタンパク質の毒性を阻害できる化合物の開発を目的としており、より詳細な研究を行うために研究用RTAの大量培養および結晶構造解析による新規阻害剤との相互作用様式の解明を行う。2019年度は、まず大腸菌を用いたRTA大量発現系の構築、精製タンパク質の結晶化、さらにRTAの活性測定法の確立を行なった。具体的には、His-RTA発現配列を導入したpET28aプラスミドを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、培養、発現誘導、集菌、超音波破砕を順次行いSDS-PAGEにより発現タンパク質の有無を確認した。この結果、目的の質量を持つタンパク質が多量に発現していることが確認できた。次に、得られたRTA溶液を用いて、ハンギングドロップ蒸気拡散法による結晶化を行なった。様々な条件下での結晶化を検討した結果、複数の条件下においてRTA結晶が得られることがわかった。このRTA単結晶に対し、阻害剤としてフェニルアラニナール含有プテリン誘導体をソーキングにより取り込ませ、X線結晶構造解析を行ったところ、RTAの第一ポケットと第二ポケットにそれぞれ1分子ずつ阻害剤が取り込まれていることがわかった。さらにいくつかのアミノ酸含有プテリン誘導体でも同様の相互作用が確認された。これまでRTAの第二ポケットと相互作用する小分子有機化合物の例はなく、本研究が最初の例である。2019年度は、上記の研究に加えて、RTA活性測定系の構築も行い、ホタルルシフェラーゼのin vitro翻訳反応を利用したアッセイ系の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題研究を推進する上で基軸となる、RTAの大量培養、RTA結晶構造解析法の確立、RTA活性測定法の開発を予定通り行うことができた。さらにいくつかの阻害剤についてX線結晶構造解析結果が得られ、これまで報告例のない相互作用が観測された。この観測結果から、本研究で目指している、阻害剤とRTA第二ポケットとの相互作用を実現する上で必要となる阻害剤-RTA間の相互作用の詳細が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2分子ではなく単分子でRTAの第一ポケット及び第二ポケットと同時に相互作用可能な分子を開発する。具体的には、2019年度に得られた知見をもとに、2つの分子を適切なスペーサーで結合した分子を設計し、その合成とRTAとの共結晶の作成、X線結晶構造解析、RTA阻害活性評価を行う。また、ドッキングスタディを利用して、RTA活性部位の2つのポケットと相互作用可能な分子を予測し、その合成、RTA共結晶の作成、X線結晶構造解析、RTA阻害活性評価も行う。併せて、新規阻害剤のRTAに対する阻害定数についても検討する。 一方、志賀様毒素(Stx)はリシン毒素と同様の作用機序をもつリボソーム不活性化タンパク質である。Stx は1と2が報告されており、構造はほとんど同じであるにも関わらずStx2の方がより毒性が高いといわれている。また、StxもRTAと同様にA鎖、B鎖から構成されており、A鎖がリボソーム不活性化酵素となっている。本研究では、このStx2 A鎖(Stx2A)も標的にしており、今後大量培養法の確立、単結晶の作成、アッセイ法の確立を行い、RTA阻害剤がStx2Aに対しても阻害活性があるかどうかを明確にする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
設備備品と一部高額試薬をキャンペーンにより安価に購入できたため余剰金が生じた。もともと2020年度交付金額は課題申請時の予算から幾分削減されており、これによって実施を断念していたペプチド受託合成費にこの余剰金をあてることで、より迅速に研究を進める予定である。
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