種々の機能を備えたバイオマテリアルは,再生医療や生体組織工学分野への応用だけでなく,薬理の解明でも重要であり,新たなバイオマテリアルの開拓が待たれている. 天然ゴムラテックス(NRL)ナノ粒子の精密な構造解析を行い,NRL粒子の細胞毒性の研究を基に,癌細胞に対する標的選択性とプログラム細胞死が癌細胞に誘導されることを実証し,抗癌活性としての薬理効果を見いだした.さまざまな細胞機能 (細胞接着,分化,シグナル伝達経路など) を調節できる新規生物活性物質としてのNRL粒子の開発と,NRL粒子と細胞との間の物理化学的相互作用の評価を行った. 高分子ナノコンポジット研究を基盤として生体組織工学に向けた「生体コンポジット」という新しい研究領域をつくることに挑戦した.その1つが本研究である,NRLナノ粒子を用いた軟骨再生である. 軟骨の再生は重要かつ緊急の課題であり,臨床的にもその必要性は極めて高いためにin vitro培養による軟骨組織形成の研究が注目されている.そこで正常細胞にヒト間葉系幹細胞(hMSC)を用いて,NRL粒子細胞毒性について研究した.hMSCに対してはNRL粒子濃度1.0 mg mL-1までは毒性がなく低濃度のNRL粒子はhMSCを安定かつ効率的に増殖させることを見いだした.そして、NRL粒子表面のタンパク質にhMSCの増殖や軟骨細胞への分化に効果があることを,マーカー遺伝子解析によって見いだした.さらには、NRL粒子表面のタンパク質だけでなく,NRL粒子(弾性率 ~1 MPa)そのものを軟骨組織に導入し,hMSCを軟骨細胞に分化誘導し,それを成熟させることに成功した.原子間力顕微鏡による細胞集塊の弾性率マッピング測定を行い,これまで実現されていない力学的強度に優れた新奇な硝子軟骨組織を初めて創成した.
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