研究課題/領域番号 |
19K05703
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
久保 貴紀 安田女子大学, 薬学部, 講師 (90435751)
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研究分担者 |
柳原 五吉 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 特任研究員 (20158025)
瀬山 敏雄 安田女子大学, 薬学部, 教授 (90163120)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | siRNA / 免疫チェックポイント / エクソソーム / 脂質 / コンジュゲート |
研究実績の概要 |
本研究課題である、「Lipid-siRNA内包エクソソームを用いた免疫チェックポイント阻害剤の開発」において、2019年度はまず各がん細胞における免疫チェックポイント分子の発現の有無とその発現量を調査し、 Lipid-siRNAsによるがん免疫チェックポイントの発現抑制効果を確認した。がん細胞側の免疫チェックポイント分子にはB7群(B7-H1、B7-H2、B7-H3、B7-H4など)があり、がん細胞による免疫チェックポイントの発現量の違いは、免疫治療法で使用される抗体医薬品などの適用範囲の制限に大きく影響している可能性がある。そのようなことから、本研究課題においても、がん細胞による免疫チェックポイントの発現量の違いを詳細に調査することは極めて重要であると考えた。また、通常免疫チェックポイントは各種サイトカインによる刺激により誘導され、その誘導の影響もがん細胞によって異なるため、これについても調査した。その結果、がん免疫チェックポイントの1つであるB7-H1(PD-L1)は、スキルス胃がん細胞(44As3)において高く発現していることが明らかとなり、また別のがん免疫チェックポイントであるB7-H4は乳がん細胞(T47D)や胃がん細胞(MKN28)で高く発現していることが明らかとなった。また、サイトカインによる刺激によってもその発現は亢進した。 そこで次に、PD-L1を標的としたLipid-siPDL1およびB7-H4を標的としたLipid-siB7H4を作製し、これらの標的遺伝子発現抑制効果について評価した。その結果、siPDL1は標的であるPD-L1の発現を強く抑制しており、Lipid-siPDL1は未修飾のsiPDL1に比べPD-L1の発現を強く抑制した。また、siB7H4に関しても標的であるB7-H4の発現を強く抑制しており、Lipid-siB7H4はより強い遺伝子発現抑制効果を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各種がん細胞における免疫チェックポイントの発現の有無および発現量について調査した。使用したがん細胞は、肺がん細胞(A549)、乳がん細胞(T47D)、胃がん細胞(MKN28)、スキルス胃がん細胞(44As3)である。まず、B7-H1(PD-L1)の発現量の違いをmRNAレベルおよび細胞表面での発現レベルで詳細に調査し、さらに、サイトカインであるIFNγ、IL-10およびTNFαを添加することによるPD-L1の発現の変化も同様に調査した。A549細胞に比べ44As3細胞(胃がん細胞)ではPD-L1のmRNA発現量は約10000倍高いこと、4つの細胞の中でMKN28細胞(胃がん細胞)が最もPD-L1の発現量が少ないことが分かった。共焦点蛍光顕微鏡とフローサイトメトリーからも同様の結果が得られ、細胞表面においても44As3細胞が最もPD-L1の発現量が高いことが明らかとなった。同様に、B7-H4の発現についても調査した結果、T47D細胞やMKN28細胞において高い発現を認めた。また、サイトカインの刺激によりPD-L1およびB7-H4の発現が亢進することも確認し、その発現量もがん細胞によって異なることを確認した。このように、がん細胞により免疫チェックポイント分子の発現が異なり、かつ、サイトカイン刺激より発現が亢進することを明らかとした。 この結果を基に、PD-L1に対するLipid-siPDL1およびB7-H4に対するLipid-siB7H4をデザイン・合成し、各がん細胞に対する免疫チェックポイントの発現阻害効果をリアルタイムPCR、共焦点蛍光顕微鏡、フローサイトメトリーなどで確認した。その結果、Lipid-siPDL1およびLipid-siB7H4は、強く標的遺伝子の発現を抑制することに成功し、未修飾のsiPDL1およびsiB7H4に比べても数倍高い効果を示した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は様々な種類のがん細胞における免疫チェックポイント分子(PD-L1およびB7-H4)の発現の有無および発現量について調査した。PD-L1を高く発現しているがん細胞とB7-H4を高く発現しているがん細胞を明らかとしたが、どちらも胃がん細胞であったことは興味深い結果となった。また、サイトカインの刺激によってその発現が亢進することを明らかとした。さらに、PD-L1およびB7-H4を標的としたLipid-siRNAをデザイン・合成し、その発現抑制効果を様々なアプローチで評価した結果、Lipid-siRNAは免疫チェックポイント分子の発現を強く抑制することが出来た。 これらの結果を基に、2020年度はLipid-siRNAの脂肪酸の種類によるRNAi効果について検討をする。本研究室において、これまでに飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸を用いて16種類の異なるLipid-siRNAの合成に成功している。特に、不飽和脂肪酸で炭素鎖が18~20の脂肪酸(例えば、オレイン酸やリノール酸など)は、本研究とは異なる遺伝子であるが、強い標的遺伝子発現抑制効果を有することを既に明らかとしている。 また、本研究課題である、「Lipid-siRNA内包エクソソームを用いた免疫チェックポイント阻害剤の開発」において、Lipid-siRNAをエクソソームへ効率よく内包させることは重要である。2020年度はこの点においても重点的に研究を行う。エクソソームは、まずは市販されており調整が容易なミルクエクソソームを用いて、様々な条件下におけるLipid-siRNAのエクソソームへの内包を検討する。作製したLipid-siRNA内包エクソソームは、各がん細胞に対する導入性および免疫チェックポイントに対するRNAi効果を評価する。これらの評価は、共焦点蛍光顕微鏡、フローサイトメトリー、リアルタイムPCRなどを用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は研究代表者と2名の研究分担者の計3名で研究を行っており、次年度使用額は18333円と少額である。すべての研究者で当初の計画通り適正に研究費を使用しており、今回の残金は2019年度の研究費使用期限近くに執行した際に、各メーカーまたは代理店の値引き価格によって生じたものである。また、2020年度の研究に適正に使用する。
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