研究課題/領域番号 |
19K05705
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
田中 好幸 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (70333797)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酵素反応機構解析 / 構造化学 / NMR / X線結晶構造解析 / タンパク質核酸複合体 |
研究実績の概要 |
遺伝子修復は生体の恒常性維持機構であり、その異常はがんの病理とも深くかかわる。中でも、ヒト8-OxoGuanine Glycosylase 1 (hOGG1) は 修復系で中核的役割を果たす酵素である。そこでがん病理の理解および生体の恒常性維持機構の理解に向けて、hOGG1の触媒機構の解明に挑む 。hOGG1の活性残基としては、Lys249(K249)とAsp268(D268)が触媒残基と目されている。しかしこれらの触媒残基の化学的役割については未同定の部分が多い。そこで上記活性残基の触媒機構上の役割の解明を目指し、hOGG1タンパク質と基質DNA複合体についてNMRによる物性解析およびX線結晶構造解析を実施する。なお、海外研究協力者のVladimir Sychrovsky博士 (チェコ科学アカデミー) の理論計算によれば、K249は脱塩基反応の際に8oxoG塩基へのプロトン供与体としても機能することが示唆されている。本仮説を証明することも当研究の目的である。 上記の研究目的を受けて、2019年度に以下の研究を実施した。1) メカニズム解析を指向したhOGG1変異体の作製 (K249をプロトン供与能のある他のアミノ酸に置換)。2) NMR分光法によるK249残基のプロトン化状態の解析のための変異体作製。本変異体は良好なNMRシグナルを与え、K249残基の迅速な帰属に寄与する。このようにここまでの実験で、K249の触媒機構上の役割を解析する準備が整った。2020年度は、pH依存的な酵素活性の変化からpKaを間接的に求めた。さらにpKa値の直接的決定を目指して、NMR分光法による活性残基のプロトン化状態も観測した。これらの両実験から決定されたpKa値は良い一致を示しており、活性残基のプロトン化が必須であること、即ち、249番目の活性残基がプロトン供与体となることを支持する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子修復は生体の恒常性維持機構であり、その異常はがんの病理とも深くかかわる。中でも、ヒト8-OxoGuanine Glycosylase 1 (hOGG1) は 修復系で中核的役割を果たす酵素である。そこでがん病理の理解および生体の恒常性維持機構の理解に向けて、hOGG1の触媒機構の解明に挑む 。hOGG1の活性残基としては、Lys249(K249)とAsp268(D268)が触媒残基と目されている。しかしこれらの触媒残基の化学的役割については未同定の部分が多い。そこで上記活性残基の触媒機構上の役割の解明を目指し、hOGG1タンパク質と基質DNA複合体についてNMRによる物性解析およびX線結晶構造解析を実施する。 上記の研究目的を受けて、2020年度までに以下の研究を実施した。1) メカニズム解析を指向したhOGG1変異体の作製した(K249残機を、他のアミノ酸に置換した各種変異体の作製)。取得できた変異体の一つで、pH依存的に活性を持つ変異体が取得できた。本変異体について、各pHでの反応速度を調べた。その結果、pHの低下に伴って反応速度の上昇が観測され、249番目残基の活性に基づくpKa値が算出できた。2) NMR分光法によるK249残基のプロトン化状態の解析を目的とした hOGG1 の変異体を作成した(活性部位のK249以外のリシン以外のアミノ酸への置換等)。pH依存的に活性が変化する変異体で、249番目に導入されたアミノ酸の帰属を行った。その結果、249番目のアミノ酸側鎖の帰属と、pH低下に伴うプロトン化状態を観測した。その結果、本変異体の249番目のアミノ酸のpKaが決定された。酵素活性から算出された間接的pKa値とNMR分光法で決まった直接的pKa値は良い一致を示した。本データは、249番目のアミノ酸がプロトン供与体となることを支持するデータである。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までの実験により、pH依存的に活性を持ちうる変異体を取得でき、活性のpH依存性から活性残基のpKa値が算出できた。また、K249残基のNMR分光法による直接観測に適した改変体もを使用することで、上記変異体の活性残基のpKa値を直接決定することができた。その結果、これらの両実験から決定されたpKa値は良い一致を示しており、活性残基のプロトン化が必須であることが示された。裏を返すと、249番目残基がプロトン化していないときは不活性であった。249番目の活性残基がプロトン供与体となることを支持するデータが得られた。今回の実験は、K249残基のpH依存的に活性が変化する変異体での実験成果であり、天然型hOGG1のデータではない。そこで天然型hOGG1でも、K249残基がプロトン供与体となることを証明する必要がある。そのためには、天然型hOGG1において、K249残基の側鎖アミノ基がプロトン化していることを証明する必要がある。 上記の実験成果を受けて、2021年度においては次に示す研究を実施する。(1) 天然型hOGG1において、生理条件のもとで、NMR分光法により、K249残基側鎖アミノ基のプロトン化状態を解析する。(2) リアルタイムNMRによるアノマー位立体解析(D268の触媒機構上の役割解明)。(3) X線結晶構造解析によるhOGG1-DNA複合体の構造決定: 活性残基K249、D268の触媒反応上の役割を明らかにするために、hOGG1の各種変異体と基質DNA複合体の結晶構造解析を行う。加えて、グリコシラーゼ反応の反応中間体の結晶学的構造決定にも挑む。(4) メカニズム解析から得られた触媒機構からSuicide inhibitorの創製を試みる。(5) 実験的に示されたhOGG1触媒機構を量子化学計算によって検証し、確かな触媒機構を提唱する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナウィルス感染症の影響で、学生の通学が制限される日が多数あり、実験が中断される期間が多々生じた。そのためコンスタントな実験ができず、解析を中心とした研究活動となった。そのため、新規の試薬購入の機会が減ったため、今年度は研究費の使用額が減ってしまった。 2021年度は、実験を中心に研究を進めることで、研究費が必要となると考えている。
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