研究課題/領域番号 |
19K05707
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
渡邊 賢司 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (90631937)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 複素環化合物 / 光反応 / 生体共役反応 / 水中反応 / 生体分子修飾 |
研究実績の概要 |
本研究では、タンパク質やペプチドなどの多数の反応点を持つ生体分子に対して、合成分子を官能基・部位選択的に化学修飾し、かつ狙った状況や環境、タイミングで合成分子を解離する新たな方法論の開発に取り組んだ。まず、インドリジン等の芳香族複素環化合物を骨格とする、生体分子の化学修飾の為のプラットフォーム分子の合成を行った。次に、インドリジンをプラットフォームとする合成分子とチオール含有ペプチドとの官能基選択的な生体共役反応の検討を進めた。次に、pH変化及びチオールの作用をトリガーとする、ペプチドからのプラットフォーム分子の結合解離を検討した。その結果、弱酸性pH(pH 4.5)において、外部チオールとの交換により、チオール化合物を放出する系の開発に成功した。本研究成果については国際学会(27th International Society of Heterocyclic Chemistry Congress)にて発表した。 上記の研究と並行し、インドリジンプラットフォーム分子を用いた、光応答的な合成分子の解離法について検討を行った。その結果、インドリジン化合物の水系溶媒中での光酸化反応によって、カルボキシ基や水酸基を持つ医薬品分子などの生物活性化合物や蛍光物質などの機能性分子を光応答的に速やかに解離する新たな系の開発に成功した。本研究成果を、特許申請するとともに、国内学会(日本化学会第100春季年会)にて誌上発表した。さらに、本成果の次年度での論文投稿に向けて、論文投稿準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に従い、インドリジン等の芳香族複素環化合物を骨格とする生体分子の化学修飾の為のプラットフォーム分子の開発を行い、pH変化や外部チオール等、複数の作用をトリガーとする結合解離法の開発に成功している。また、インドリジンプラットフォームを種々のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アシル基などの置換基により構造展開し、光反応性を評価することにより、光応答的な化合物放出法の最適条件を見出すことに成功している。インドリジン化合物の光酸化反応は、他グループからも報告があるものの、500 Wキセノンランプの照射や光増感剤の添加、100%酸素をバブリングする条件でも、反応時間が8-20時間と長く、また、化合物の放出を意図した研究ではなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究については、インドリジンを骨格とするプラットフォーム分子への生体機能性分子の新たな導入方法と、光応答的な分子解離法を集中的に研究する予定である。特に、インドリジンへのカルボン酸化合物の導入法について研究を行う。インドリジンと酸ハロゲン化物とのFriedel-Craftsアシル化反応は古くから知られているものの、縮合剤を用いるカルボン酸とのFriedel-Crafts型のアシル化反応は調べる限り例がない。電子豊富なインドリジンとカルボン酸との縮合反応について、最適条件を検討するとともに、基質一般性の調査を進め、インドリジン化合物の変換反応として報告したいと考えている。なお、本法を用いたアシルインドリジンへの変換反応についは昨年度に特許申請を行なっている。 光応答的な分子解離法については、現在、触媒量の光増感剤の存在下、660 nmの赤色LED光の照射により、短時間でほぼ定量的に化合物を放出する系の開発に成功しており、本年度に論文投稿を行うとともに各種学会にて発表予定である。インドリジンの光酸化反応は、照射する光の波長に対応する吸収を持つ光増感剤があれば、様々な波長領域の光の照射によっても反応が進行すると考えられる。例えば、850ー1000 nmの波長領域の近赤外光は、ヘムや水分子による吸収が少なく、赤色光よりもさらに組織透過性が高い。本反応に近赤外光照射条件が適用できれば、より有用性が高まると考えられる。このような近赤外波長領域で反応を促進する光増感剤の選定を進めるとともに、新たなエネルギー源と反応するプラットフォーム分子の構築についても検討したいと考えている。また、カルボン酸やアルコール化合物の放出に加え、アミンやアミン誘導体を放出する光反応についても検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
より広範な基質についての反応の適用範囲の検討のために必要な各種有機合成試薬やタンパク質、ペプチドなどの高価な生体分子試薬の購入のため、研究経費の一部を次年度に繰り越した。また、論文投稿に必要な英文校正費用や投稿料、各種学会での発表のための参加費や旅費に活用したいと考えている。
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