糸状菌は多様な化学構造を有する二次代謝産物を生産する。ゲノム解析技術の進歩により、二次代謝産物生合成遺伝子の多くは発現していないことが明らかになっている。すなわち、一株の菌において、我々がまだ知らない新規な二次代謝産物を生産する能力がある事を意味している。二次代謝の生合成に関連する遺伝子群がどのような物質を生合成するのかが、不明な場合にクリプティックという表現が用いられ、未発現の遺伝子をクリプティック遺伝子と言われている。そこで二次代謝産物を得ることを目的に、異種の微生物間の相互作用を利用した「共培養法」により、クリプティック遺伝子を活性化し、新たな代謝産物を探索することを試みた。 スクリーニングの結果、2菌株(Clonostachys rosea B5-2、Nectria pseudotrichia B69-1)を混合した培養条件においては、それぞれの単一の純粋培養では、見られない数種の物質の生産が明らかになった。そこで、それらを各種シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、精製し、3種の物質を明らかにした。NMRを用いた化学構造解析の結果より、それらは、メロテルペノイド類のコクリオキノンDの新規類縁体と新規ネクトリアノリンDであることが判明した。コクリオキノン類はHL60株に対して、毒性を示した。また、混合培養などの条件を検討している過程において、Arthrinium marii M-2111 株の培地成分にリンゴジュースを添加することにより、新たに生産される物質が判明し、単離した物質の構造解析の結果、同一の平面構造を有する新規なエポキシナフトキノールであることが判明した。これらは、ラット肝臓がん細胞(H4IIE hepatoma cells)に対して、毒性を示した。
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