当研究室では、モルヒナン骨格を有する7-ベンジリデンナルトレキソン(BNTX)およびその誘導体が、薬剤耐性マラリアの耐性を解除する作用や抗トリコモナス活性を有することを見出しており、これらの作用機序の鍵として、BNTX誘導体の持つ不飽和二重結合やδオピオイド受容体拮抗活性が関与しているのではないかと推察した。そしてその仮説を実験的に証明すべく、約20種類のBNTX誘導体において構造活性相関研究を行い、誘導体の化学的なチオール捕捉能とクロロキン耐性マラリア原虫における殺活性の相対的な評価を行った。その結果、予想通り、抗マラリア活性の強いモルヒナン誘導体ほどチオール捕捉能も強い傾向にあることを確認し、初めて可視化することに成功した。 このような研究背景の下、様々なモルヒナン誘導体を合成する過程で、モルヒナン誘導体に特異的な新規反応をいくつか見出すことに成功した。これらの新規反応によって生成した化合物群は、創薬研究的にドラッグライクな構造をしており、原虫感染症に限らず有望なリガンドとなりうる。特に今年度は、合成したモルヒナン誘導体の中からオピオイド受容体に作用する化合物とオレキシン受容体に作用する化合物を見出しており、構造活性相関研究を経て、オレキシン1受容体への特異的親和性を示す鍵となる活性立体配座を解明することにも成功した。これらの結果は原著論文にて報告した。また、モルヒナン骨格上でFavorskii型の新規転位反応が進行することも見出しており、得られた生成物の中には極めて高いδオピオイド受容体への選択性を示すものがあった。動物実験においても強い鎮痛活性を示すことを確認しており、こちらについては論文執筆中である。
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