研究課題
Pradimicin A (PRM-A) は,マンノース (Man) に結合するユニークな天然物である。PRM-Aは有用な糖鎖研究用ツールとなる可能性を秘めているが,高い凝集性を示すために取り扱いが難しく,糖鎖研究に全く活かされていない。本研究では,「カルボキシ基のアミド化」という単純な構造変換によってPRM-Aの凝集性を大幅に抑制できるという独自の知見に基づき,糖鎖研究に利用できるPRM-A誘導体の開発を目指している。本年度は,2-aminoethanolをアミド縮合した誘導体PRM-EAを用いて,ドットブロット法における糖タンパク質の検出を試みた。5種の糖タンパク質をブロットしたポリフッ化ビニリデン膜をPRM-EA水溶液で処理したところ,糖鎖の末端にManをもつ糖タンパク質3種がPRM-EAに由来する赤色に染色されることが確認できた。本結果は,PRM-EAがManを有する糖タンパク質の検出薬として利用できることを示唆するものである。さらに,スペーサーを介してPRM-Aを二分子連結した二量体を5種合成し,細胞壁にManを含む酵母Candida rugosaに処理したところ,短いスペーサーを有する二量体が本酵母細胞を架橋して沈殿させると同時に赤色に染色することが明らかになった。細胞壁にManをもたない大腸菌Escherichia coliは二量体処理によって沈殿を形成しなかったことから,本二量体は酵母検出に利用できることが示唆された。一方,PRM-A産生菌から単離されるquinocidin (QCD) のアミド誘導体が中性水溶液中でシステインおよびグルタチオンと付加体を形成することを明らかにした。本天然物はタンパク質中のシステイン残基とも共有結合を形成することが想定されることから,本化合物も研究用ツールとして利用できる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
本研究では,PRM-Aのアミド化を分子設計の基盤として,① 糖鎖研究用ツール,② 酵母検出薬,③ Man以外の糖に結合する誘導体の開発を目指している。本年度は,PRM-EAによって糖タンパク質を染色できること,さらに二量体によって酵母細胞を赤色沈殿として検出できることを明らかにしたことから,①および②に該当する誘導体の開発を達成できたと判断したため。
今後は,本年度に開発した誘導体の最適化を計画している。具体的には,PRM-EAおよび二量体を構造修飾することによりManに対する結合活性を向上させ,糖タンパク質および酵母の検出感度を改善した誘導体の開発を試みる。さらに,PRM-Aを固定したアガロースゲルを調製して糖タンパク質の精製が可能かどうかを検討するとともに,アントラキノンを連結させたPRM-A誘導体を合成して光照射によって糖鎖のMan残基を切断できる誘導体の開発研究も行う予定である。また,PRM-AのMan認識メカニズムに関する独自の知見に基づき,合成が容易な単純化アナログを開発することも試みる。これらの研究と並行して,本年度に開発したQCDアミド誘導体の応用研究も行う予定である。応用の一つとしては,タンパク質のシステイン残基を標的とした不可逆的阻害剤の開発を計画している。
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