研究課題/領域番号 |
19K05712
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中川 優 名古屋大学, 糖鎖生命コア研究所, 准教授 (90452284)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Pradimicin / 糖鎖 / 天然物 / マンノース / 糖タンパク質 / 研究用ツール |
研究実績の概要 |
Pradimicin A (PRM-A) は,マンノース (Man) に結合するユニークな天然色素である。昨年度,我々はPRM-Aのカルボキシ基に2-aminoethanolをアミド縮合した誘導体PRM-EAがドットブロットにおいてN結合型糖鎖を有するタンパク質を染色することを見出した。そこで本年度は,PRM-EAよりも高感度な糖タンパク質染色剤の開発を目指し,新たなアミド誘導体の合成を行なった。様々な官能基を有するアミンを縮合したアミド誘導体10種のMan結合活性を評価した結果,hydroxylamineを縮合したヒドロキサム酸誘導体がPRM-EAよりも約8倍高いMan結合活性を示すことを見出した。そこでドットブロットにおける糖タンパク質の染色を行なったところ,ヒドロキサム酸誘導体はPRM-EAよりも低濃度の糖タンパク質を検出できることが確認され,より実用的な糖タンパク質染色剤となりうることが示唆された。 さらに,O結合型糖鎖を有する糖タンパク質の検出にもPRM-Aが利用できるかどうかを検証するため,セリンおよびスレオニンの側鎖ヒドロキシ基にManが結合したモデルアミノ酸(Man-Ser, Man-Thr)を合成し,PRM-Aとの結合を評価した。その結果,両化合物ともPRM-Aと結合することが明らかとなり,セリンあるいはスレオニン残基にManを有する糖タンパク質の検出にもPRM-Aが利用できる可能性があることが確認された。 一方,PRM-A産生菌から単離したquinocidinがシステインとマイケル付加体を形成するという昨年度の知見に基づき,その母核構造である3,4-dihydroquinolizinium(DQ)環を利用したシステインラベル化剤の開発も同時に進めた。本年度は,タンパク質リガンドと連結可能なDQ化合物を合成し,本化合物がシステインに付加することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,PRM-Aのアミド化を分子設計の基盤として,① 糖鎖研究用ツール,② 酵母検出薬,③ Man以外の糖に結合する誘導体の開発を目指している。昨年度と今年度の研究によって,糖タンパク質の染色剤および酵母検出薬の有力な候補化合物を得ており,① および ② に関しては順調に進展しているといえる。一方,③ に関しては未だに試行錯誤の段階ではあるが,PRM-A産生菌から見出したquinocidinをシステインのラベル化剤に応用するという新たな研究用ツールの開発に大きな進展があったため,総合的に判断しておおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,高感度の糖タンパク質検出剤の開発を目指し,蛍光基を連結した誘導体の開発を計画している。さらに,アミド化以外の構造修飾についても検討し,糖タンパク質の精製や糖鎖を標的とした免疫療法への応用にも展開する予定である。また,PRM-AのMan認識メカニズムに関する独自の知見に基づき,構造を単純したアナログやMan以外の糖に結合する誘導体の開発も試みる。これらの研究と並行して,本年度に開発したDQ化合物に基づき,タンパク質のシステイン残基のラベル化剤や不可逆的阻害剤の開発研究も併せて行う予定である。
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