糖脂質の一種であるガングリオシドGM3は、細胞膜上でEGF受容体の細胞増殖シグナルを抑制することが知られているが、分子機序は不明な点も多い。そこで蛍光分光法を用いて、GM3とヒトEGF受容体の膜貫通ドメインとの相互作用を解析した。その結果GM3は、脂質膜環境下でEGF受容体の膜貫通ドメインと相互作用し、単量体を安定化することを明らかにした。GM3が膜貫通ドメインの多量化を妨げることでEGF受容体の細胞増殖シグナルを抑制している可能性を示した。このGM3と一回膜貫通タンパク質の側方的な相互作用が、膜中のコレステロールにより誘起される可能性を化学合成と固体NMRを駆使して探った。単糖ユニットごとに位置選択的標識を施した五種類のGM3プローブを作り分け、反応場の形成に関与するコレステロールとスフィンゴミエリンを含有した脂質膜中で、固体NMRパラメーターを得た。標識位置の膜法線に対する配向を示すパラメーターを組み合わせた解析から、GM3頭部基糖鎖の一部が脂質膜表面と平行に配向した特徴的な配座をとることが分かった。このような活性配座が広く一回膜貫通タンパク質とGM3の相互作用を司る可能性がある。 EGF受容体のような一回膜タンパク質と糖脂質の相互作用がおこる細胞膜上の機能ドメインの理解を進める必要がある。そこで、機能性のガングリオシド類のコア構造で形成され免疫の活性化を担うラクトシルセラミドを対象に、脂質膜中でのドメイン構造を解析した。ラクトシルセラミド蛍光プローブの蛍光寿命と重水素固体NMRの結果から、ラクトシルセラミドが顕微鏡ではみえない1マイクロメートルよりも小さく強固なドメイン構造を形成することを明らかにした。GM3や他のガングリオシド類も脂質膜と近傍領域は同じ構造なので、同様に微小な脂質ドメインを形成する可能性を示唆する結果ともいえる。
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