研究課題/領域番号 |
19K05716
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
志村 洋一郎 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (60332920)
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研究分担者 |
上松 仁 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (20435407)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 抗カビ活性 / バチルス / トリコデルマ |
研究実績の概要 |
本研究課題は申請者らが分離した糸状菌(カビ)株とそれに拮抗する細菌(バチルス)株をモデル系とし、(1)抗カビ活性およびカビ菌糸・胞子形成促進活性の主体の解明、(2)カビ菌糸・胞子形成における作用点の解析、そして(3)抗カビ活性のカビ菌糸・胞子形成への影響を明らかにし、異種微生物間の相互作用や形態変化など生存戦略に与える分子メカニズムの解明を目的としている。2019年度は、以下の3項目について、研究を進めた。 ①抗カビ物質の分離・精製手法の確立:バチルス分離株の振とう培養した培養液の遠心上清を塩酸酸性後に沈殿を得た。これを水に懸濁後に中和し凍結乾燥に供した。得られた残渣にメタノールを加え抽出後乾固し、水に溶解した。これを酸沈殿物抽出液とした。これを逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィに供し、精製条件を決定した。最終的に複数のピークが抗カビ活性を示し、バチルス分離株の抗カビ活性は複数の物質からなっていることが明らかとなった。 ②抗菌スペクトルの検討:バチルス分離株の示す抗カビ活性がどのような菌株に効果を示すのかを知るために、培養液の遠心上清と酸沈殿物抽出液について、真菌18株中10株に、そして細菌17株中9株(グラム陽性6株、グラム陰性3株)に効果を示すことが明らかとなった。 ③バチルス分離株のゲノム解析:バチルス分離株の抗カビ物質生合成を検討する上で重要となるゲノム分子情報基盤確立のためにロングリードシーケンサによる配列解析を行った。約4.1 M塩基対からなる環状ゲノムであった。相同性検索の結果、環状リポペプチド合成遺伝子(群)ホモログの存在が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、申請者らが見出したカビ分離株とそれに拮抗するバチルス分離株をモデル系とし、(1)抗カビ活性およびカビ菌糸・胞子形成活性の主体の解明(I.分離・精製;II.生産条件の検討;III.生合成経路の解明)、(2)カビ菌糸・胞子の形成における抗カビ活性の作用点の解析(IV.カビの転写産物解析;V.カビの代謝物解析)、そして(3)抗菌・抗カビ活性の応用(VI.抗菌スペクトルの測定;VII.抗菌・抗カビ物質の分離・同定)を検討し、異種微生物間の相互作用解明を目指している。2019年度は、I、II、III、そしてVIを実施した。 I.抗カビ物質の分離・精製方法の確立およびII.抗カビ物質生産では、培地からの抽出に時間を要していたが、2日間振とう培養液の培養液の酸沈殿物抽出液に抗カビ活性が高く回収できることを確認したことから、これを用い液体クロマトグラフィによる精製方法を確立した。しかしながら、その構造決定にまでは至らなかった。 III.生合成経路の解明では、バチルス分離株の抗カビ物質生合成に関し、ゲノム分子情報基盤の解明に成果を得た。近年、細菌の代謝系などを推測する上で、ロングリードシーケンサによる配列解析によりコスト抑制できることから、前倒しで行い、十分な成果を得ることができた。これに付随し、2種のバチルス属菌由来の市販抗菌リポペプチドに関し抗カビ活性を調べ、1種は抗カビ活性を示さないことが明らかとなり、今後の生合成経路解明や応用に役立つ成果を得た。 VI.抗菌スペクトルの測定では、培養上清および培養液酸沈殿物抽出液について、真菌18株、細菌17株(グラム陽性12株、グラム陰性5株)に対する抗菌スペクトルを測定し、真菌10株、細菌9株(グラム陽性6株、グラム陰性3株に抗真菌・抗菌活性を示すことがわかり、応用に向けての重要な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、抗カビ物質の分離・精製に関し、精製方法を確立したが、構造決定にまでに至らなかった。そのため、2020年度も引き続き抗カビ物質の精製を進め、その構造決定を目指す。市販抗菌リポペプチド標品での抗カビ活性測定からsurfactinではないことが明らかとなり、今後、バチルス分離株の抗カビ物質の構造が bacillicin、fengycinあるいはiturinAのような既知の抗菌リポペプチドなのか新規物質なのかを明らかにするためにも、バチルス分離株の抗カビ物質の精製を進め構造決定する必要がある。また、抗菌スペクトル測定の結果、バチルス分離株は大腸菌には抗菌活性を示さないことが判明したため、大腸菌を宿主とした推定抗カビ物質生合成遺伝子(群)の組換え実験が可能と考えられ、それによる生合成遺伝子(群)の検証を進める予定である。抗カビ物質の生合成研究を進める上でも抗カビ物質の構造決定は必要なため、最重要課題として進めていく。 その他に、バチルス分離株の抗カビ活性に対するカビ分離株の細胞応答を知るために、カビ細胞からの全RNA抽出とその解析(RNA-seq)を実施する予定である。しかしながら、RNA-seqをする上で、カビ分離株と同菌種のゲノム情報は1菌株だけであり、その遺伝子分子情報基盤は十分ではない。そのため、カビ分離株のゲノム解読も視野に入れながら研究を推進していく必要がある。このようなこと通じ、バチルス由来の抗カビ物質に対してカビ分離株の示す菌糸・胞子の生育阻止円外縁部へ集中する分子メカニズムの一端を明らかにし、異種微生物間の生存戦略の解明を進めていく。
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