本研究課題は申請者らが分離した糸状菌(カビ)とそれに拮抗する細菌(バチルス)をモデル系とし、(1)抗カビ活性およびカビ菌糸・胞子形成促進活性の主体の解明、(2)カビ菌糸・胞子形成における作用点の解析、(3)抗カビ活性のカビ菌糸・胞子形成への影響を明らかにし、異種微生物間の相互作用や形態変化など生存戦略に与える分子基盤の解明を目指している。2021年度は以下の3項目について研究を進めた。 ①抗カビ物質(画分9)のアミノ酸DL分析:ODSカラムで高度に精製された抗カビ活性画分9はアミノ酸組成分析より2020年度に新規物質であることが示唆されていた。そこでより詳細に構成するアミノ酸を知るためにDL分析した結果、D-Leu、L-Leu、L-Ile、D-Allo-Thr、L-Glx、D-Tyr、L-Tyr、D-Orn、Proで構成されることが明らかとなり、抗菌リポペプチド・プリパスタチンの新規類縁体と類推された。 ②抗カビ物質(画分10)のアミノ酸組成分析および配列解析:ODSカラムで高度に精製された画分10に関し塩酸加水分解によるアミノ酸組成簡易分析とMULDI-TOF/TOF-MS解析を実施した。それらの結果から、画分10のアミノ酸配列は、Leu-Ile-Pro-Tyr-Val-Val-Thr-Gluであることが明らかとなり、新規抗カビ物質の可能性が示唆された。 ③精製方法の改良:これまでは無細胞培養液を酸沈殿処理することで濃縮し、その沈殿物から抗カビ物質精製を進めてきた。しかし、手間が煩雑で時間がかかっていた。そこで、無細胞培養液を酸沈殿処理することなく疎水性カラムに供したところ、収量は酸沈殿処理した場合に比べ4倍程度増加した。操作の簡略化と増収の両方が可能となった。
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