研究実績の概要 |
がんは,様々な遺伝子変異の蓄積によって解糖系やグルタミン代謝などのエネルギー代謝経路を変化させて生存・増殖を有利にする.したがって,がんの代謝を阻害する化合物は,がん特有の代謝経路を利用した抗がん剤の候補として期待される.本研究ではグルタミン代謝補償試験を用い,グルタミンの代謝に影響を与えうる化合物を放線菌の培養液から探索した.グルタミン代謝補償試験はグルタミンまたはジメチルケトグルタル酸 (DMKG) を含む培地で培養した細胞に対する薬剤感受性を評価するものである.グルタミンはケトグルタル酸 (KG) に代謝されクエン酸回路に導入される.DMKG は KG に代謝されグルタミン代謝を補償する.したがって,前者の培地選択的に毒性を示す化合物はグルタミン代謝に影響を及ぼすことが期待される.本探索から得られた放線菌の培養液を,グルタミン代謝補償活性を指標に繰り返し精製し分子量約250及び500の2つの新規天然物を得た.分子量約250の新規天然物は生物活性を示さなかった.一方分子量約500の天然物はグルタミン代謝補償活性,がん細胞に対する細胞増殖抑制活性,細胞内のグルタミン量を減少させる活性を示した.各種スペクトル測定(MS, NMR(1H,13C-NMR, DEPT,COSY, HSQC, HMBC))により,本天然物の平面構造を2つの異常アミノ酸からなる新規アシルジペプチドと決定した.今後,立体配置を含む本天然物の構造を決定する計画である.さらに研究計画に従い,適切な分子プローブへと導き本天然物の化学生物学的な作用機序解析を行う.
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