現在までに日本脳炎に対する有効な治療薬は臨床で存在せず、日本脳炎ウイルス(JEV)に罹患した患者に対しては対症療法が基本となっている。JEV感染地域の拡大とその高い致死率から、今後JEV感染の流行・拡散を防止し、罹患者の予後を改善するためにも、有効な抗JEV薬の開発が切望されている。そこで、2021年度本研究では、 コンドロイチン硫酸Eが、JEV感染阻害活性を示すことから、グルクロン酸ユニットに注目し、グルクロン酸の4位が硫酸化した誘導体を設計した。また、これまで、p-メトキシフェニルグリコシドが日本脳炎ウイルスに対して高い感染阻害活性を持つことを報告しているため、それを踏襲した。最初に、グルクロン酸の2、3位をアシル系の保護基、6位をメチルエステルとした合成を進めたところ、硫酸化までは成功したが、最後のアシル系保護基の脱保護の段階で、ナトリウムメトキシドを用いたところ、グルクロン酸の4、5位間に二重結合が導入されることが明らかになった。そこで、グルクロン酸の2、3位をベンジル系の保護基、6位をベンジルエステルとした合成を進めたところ、目的物β-GalNAc4Sを得ることができた。この化合物の感染阻害実験をおこなったところ、十分な活性を持つことが明らかとなった。また、同様な経路で現在、α-GlcA4Sの合成を行っており、合成の完了も近い。一方、トレハロースは自然界に広く存在している二糖であり、現在では大量生産が可能になったことで安価に入手することができる。また、有用な食品添加物として利用されており、この汎用性を活かして化粧品や医薬品への応用も期待されており、大変良い出発物質ではないかと考えた。そこで、トレハロースを原料にベンジル保護した合成を進め、6位の酸化、ベンジルエステル化に成功した。今後、硫酸化、脱保護を行い、硫酸化トレハロース誘導体の合成を完了する予定である。
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