これまでに、スクアレン合成酵素(SQS)の阻害剤であるYM-53601を細胞に添加し、紫外線を照射すると、SQSが選択的に分解されることを発見し、この分解にはSQSのC末領域(371-397)が重要であることを明らかにしていた。本研究では、このSQSのC末領域を光分解性タグとして活用し、任意のタンパク質を小分子化合物依存的に光分解できる系の構築を目指している。このメカニズムとして、紫外線照射によりYM-53601が開裂してラジカルを生成し、このラジカルの生成を起因として、SQSのC末領域が分解されることを見出してきた。一方、YM-53601に含まれるカルバゾール構造の窒素原子を炭素原子に置換した誘導体では、紫外線照射によるラジカルの生成量が低下し、またSQSに対する分解能も低下することが分かった。そこで、この知見を元に、更なる誘導体展開を行ったところ、紫外線照射によるラジカルの生成量がYM-53601よりも増加し、SQSに対する分解能も高い誘導体を得ることができた。ところで、SQSのC末領域を欠損した変異体にYM-53601は結合できず、さらに光分解も誘導することができないことから、YM-53601のSQSのC末領域への結合が光分解に重要であると考えていた。しかし、YM-53601の誘導体を用いた解析の結果から、SQSへの結合能が著しく低い化合物でもSQSに対し光分解を誘導できる化合物が存在した。このことから、SQSのC末領域のラジカルに対する高い感受性が、YM-53601による光分解に極めて重要な役割を果たしていることが強く示唆され、その領域の絞りこみを行うことができた。以上の結果より、より短鎖のSQSのC末領域を光分解性タグとして活用し、高活性のYM-53601の誘導体を用いた光分解系を構築することができた。
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