本研究は3カ年の研究実施計画に基づいて行われており,令和3年度は研究期間の最終年度に該当した。令和2年度研究では,LSRリガンド刺激前後の細胞形態への影響を詳細に解析し,LSR発現量が低下した細胞が持つ形態と,LSR遺伝子をノックダウンさせた細胞が持つ表現型とが相関する知見を得た。さらに,接触阻害期にあり安定な上皮構造を構築した細胞に対して,LSRリガンド投与によるLSR発現量の低下誘導が,急激に細胞運動能を亢進させることを見出した。そこで本年度は,この細胞運動能の変化の過程を詳細に解析した。まず,LSRリガンドを添加した後の細胞形態の変化を観察した。位相差顕微鏡による生細胞観察,および共焦点顕微鏡による固定細胞観察の結果,細胞運動の亢進に先立って,LSRリガンドに依存的に細胞間隙が部分開裂することを見出した。さらに,透過電顕により隣接細胞間領域を詳細に観察すると,細胞接着装置の形態は維持されつつも,細胞間隙が開裂し,さらに小胞が形成されることを見出した。小胞形成過程を生細胞観察した結果,この小胞は細胞外液を内包することを見出した。また,アミロライド誘導の存在化ではこの小胞が顕著に減少し,さらに ナトリウム水素交換輸送体タンパク質のノックダウン細胞でも同様にこの小胞は減少した。これらより,LSRリガンドに依存的な,細胞運動能の亢進に先行する小胞形成過程が,マクロピノサイトーシスであることを明らかにした。また,マクロピノサイトーシスを抑制した細胞では,LSRリガンドに依存的な細胞運動能の亢進が惹起されないことを見出した。一方,LSRリガンド投与によりLSRタンパク質の発現が減少する過程には,Rab5が関与する細胞内移行が関与すること,およびマクロピノサイトーシスの形成にはRacやJNKが関与することをそれぞれ明らかにした。これらの結果を論文にまとめ,公開した。
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