研究課題
2020年度は,piceatannolのin silico予測GLO I結合様式(2種)に基づいて構築したファーマコフォアを用いて,ナミキ商事の大規模化合物ライブラリについてin silicoスクリーニングを行ったが,残念ながらファーマコフォアを満たす化合物を得ることができなかった.既存化合物からファーマコフォアを満たす化合物を見出すことは困難であると考えられることから,新規に設計することを目指し,ファーマコフォアの精度を高めるために,当研究室で見出した新規GLO I阻害化合物TLSC702とpiceatannolについて,GLO Iとの複合体のX線結晶構造解析を行ったところ,TLSC702についての結合様式の解明に成功した.Piceatannolについても結晶の取得はできているので,解析を進めていく.2019年度に新規GLO I阻害化合物として新たに見出したcaffeic acid phenethyl esterとsulfuretinについて研究を進め,caffeic acid phenethyl ester類縁体から,さらに阻害活性の高い化合物を見出すことができた.Sulfuretinについては培養がん細胞への効果を詳細に検討し, sulfuretinによるがん細胞へのアポトーシス誘導がGLO I阻害によるものであることを確認した.また,GLO Iが不安感受性に関与することが報告されていることから,piceatannolの抗不安作用とストレス条件下におけるがん増殖能に対する影響について担がんモデルマウスを用いて検討を行った.その結果,piceatannolには低用量による抗不安作用と高用量による抗がん作用の両作用が期待できることが明らかとなった.したがって,GLO I阻害剤は抗不安作用と抗がん作用の両作用を併せもつ新しい作用機序のがん治療薬となることが期待される.
3: やや遅れている
2020年度には大規模化合物ライブラリから選出した化合物のGLO I阻害評価を行う予定であったが,残念ながらファーマコフォアを満たす化合物を得ることができなかった.そこで,既存化合物からファーマコフォアを満たす化合物を見出すことは困難であると考えられることから,新規設計を目指し,ファーマコフォアの精度を高めるために,当研究室で見出したGLO I阻害化合物TLSC702とpiceatannolについてGLO Iとの複合体のX線結晶構造解析を行ったところ,TLSC702について結合様式の解明に成功した.Piceatannolについても現在解析を進めている.GLO I阻害剤設計に役立つ情報の取得のため,2019年度に植物由来天然有機化合物ライブラリからcaffeic acid phenethyl esterとsulfuretinを見出した.現在,さらにもう1種の化合物を見出しており,これらについて類縁体の構造活性相関解析および培養がん細胞への効果の検討を進めている.また,がん治療においてGLO Iをターゲットとすることの有用性について検討した.GLO Iの不安感受性への関与が報告されていることから,piceatannolの抗不安作用とストレス条件下におけるがん増殖能に対する影響について担がんモデルマウスを用いて検討した結果,piceatannolには抗不安,抗がんの両作用が期待できることが明らかとなった.したがって,GLO I阻害剤は抗不安作用と抗がん作用の両作用を併せもつ新しい作用機序のがん治療薬となることが期待される.以上から,本研究課題は当初の予定であるスクリーニングからの阻害剤創製についてはやや遅れているが,X線結晶構造解析や天然有機化合物からの新たなGLO I阻害化合物発見など,in silico設計によるGLO I阻害剤創製に向けて大きな進展があったといえる.
2021年度は,スクリーニングに関してはナミキ商事の最新版の大規模化合物ライブラリからデータベースを構築して再度スクリーニングを行う.2020年度までは,設定したファーマコフォアを全て満たすという条件でスクリーニングを行っていたため,ヒット化合物を得ることができなかった.2021年度は,ファーマコフォアを8割満たす等,条件を少しゆるくしてin silicoスクリーニングを行うことによってヒット化合物の取得を目指す.当研究室で見出したGLO I阻害化合物TLSC702について,2020年度にX線結晶構造解析による結合様式の解明に成功した.本研究の課題である「in silico設計による新規制がん剤としてのGLO I阻害剤創製」を進めるため,2021年度はpiceatannolだけでなく,TLSC702をリード化合物とした新規GLO I阻害剤設計も行っていく.X線結晶構造解析で明らかとなった結合様式から高精度のファーマコフォアを構築し,TLSC702に基づいた構造最適化によって新規GLO I阻害化合物を設計する.それらを有機合成し,in vitro酵素アッセイによってGLO I阻害能を実測評価する.併せて,培養がん細胞への効果の検討も行い,高いGLO I阻害能およびがん細胞へのアポトーシス誘導能をもつ化合物へと構造最適化を進めていく.Piceatannolについても,得られた複合体結晶についてX線結晶構造解析を進めていく.2019年度,2020年度に植物由来天然有機化合物ライブラリからのスクリーニングによって見出した新たなGLO I阻害化合物3種について,類縁体の構造活性相関解析を行い,得られたデータのin silico解析結果を上述のファーマコフォアの高精度化に利用する.さらに,これらの化合物のGLO I阻害による培養がん細胞へのアポトーシス誘導効果の検討を行う.
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