研究課題/領域番号 |
19K05739
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
長谷川 慎 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (10367899)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子進化工学 / プロテアソーム阻害剤 / 中分子医薬 |
研究実績の概要 |
創薬リードとしてペプチドなど中程度の分子量の化合物が再評価されている。細胞選択性・膜透過性・特異性・親和性などの機能を付与できるためであるが、その開発の方法論は発展途上である。本研究では、がん特異性、作用点への集積、酵素活性部位への移行を制御といった機能を持つペプチドを利用した低分子量の医薬候補の活性増強とドラッグデリバリーの手法を確立し、新しい中分子医薬の設計法を提案する。 研究初年度は、cDNAディスプレイ法により大腸がんに顕著に発現する膜結合型グアニル酸シクラーゼCに結合する新規配列ペプチドを探索した。膜結合型グアニル酸シクラーゼC(GC-C)とは、近年注目されている、小腸内腔の水分量を調整するホルモン受容体である。GC-Cは、膜一回貫通型タンパク質であり、細胞外ドメインにリガンド結合部位、細胞内ドメインにGC酵素触媒部位を有する。このGC-C細胞外ドメインを大腸菌で組換えタンパク質として調製し、これを用いてランダムなペプチド配列から新規なリガンドとなりえる結合ペプチド探索を行った。その結果、配列収束を確認できた。 第2年目にあたる今年度は、プロテアソームに対する親和性ペプチドの最適化を行い、プロテアソームの阻害・活性化の両方を制御することに成功した。さらに、得られたペプチドに、分子量500程度のプロテアソーム阻害化合物に連結した分子を作製した。 最終年度は、GC-Cのエンドサイトーシスによる細胞特異的な薬剤内部移行の効果を検証し、さらに薬効評価には、モデル系として大腸がん由来株化細胞を用い、細胞内プロテアソーム活性などを検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロテアソーム阻害剤(以下、PI)は新しいクラスの分子標的抗がん剤である。PI開発において「がん細胞への送達」「プロテアソームへの送達」「作用部位への送達」が課題となっている。近年、受容体のエンドサイトーシス(receptor-mediated endocytosis、以下RME)を利用した薬剤送達の成功例が多数報告されている。cDNAディスプレイ法とよばれる試験管内分子進化技術を適用し、大腸がん表面に多く発現する受容体、膜結合型グアニル酸シクラーゼC(以下、GC-C)を標的としたペプチドを探索する。次に、これを薬剤送達の鍵となるRMEに活用するために、これを連結したPIを設計し、がん特異性、作用点への集積、酵素活性部位への移行を制御した、前述の「3つの送達」問題を解決した薬剤を創出する。これにより、新しい中分子医薬(分子量1000~の医薬)の設計戦略を提示することが本研究の目的である。本課題は、堅固な構造の低分子有機化合物とハイブリッド化させる戦略を試みる。これによりペプチドが抗体並みの医薬リソースであることを実証する。 第2年度にあたる今年度は、初年度と同様にcDNAディスプレイ法によりプロテアソームに結合する配列ペプチドを探索し、さらにそれを構造活性相関を検討することで最適化した。その結果、プロテアソームに相互作用し、阻害と促進の両方を担う配列を見出した。GC-Cへの結合ペプチド、プロテアソームへの結合ペプチド、ならびにそれを阻害・促進する各アミノ酸配列を同定できたのでこれらを連結し、がん細胞モデル系への効果を検証する。
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今後の研究の推進方策 |
得られたペプチドの標的への結合親和性については検討した後、これら計10数残基のペプチドを分子量500程度のプロテアソーム阻害化合物に連結し、受容体エンドサイトーシスにより細胞特異的に内部移行し、標的に集積する化合物を合成する。分子設計の要点は以下の通りである。第一に、ペプチドと連結するファーマコフォアとして独自開発化合物RID-Fを用いる。RID-Fは分子量500程度と小さく、20Sの酵素活性部位にナノモル濃度で結合するPIである。化学的に安定かつ構造が堅固で、標的への特異性が高い。構造活性相関を解明しており、活性に影響を与えない部位に他の構造セグメントを導入できる。第二のセグメントは、20S結合ペプチドである。プロテアソーム自体に親和性を持ち、薬剤を作用点に集積させる。これはプロテアソームへの薬剤集積を可能とする。さらには、それ自体でもプロテアソームの阻害あるいは促進できる配列を持つ。第三のセグメントが、大腸がんに特異的に発現するGC-Cに対する結合ペプチドである。この薬効評価には、モデル系として大腸がん由来株化細胞を用い、細胞内プロテアソーム活性などを検証し薬効を証明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学の支給する研究資金で当該研究を遂行することができた。次年度は、今年度の繰越金を合算して、物品費や人件費などにあてることで継続的に必要物品の購入や技術員の雇用を維持する。これにより、研究計画の円滑な遂行が見込まれる。
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