研究課題/領域番号 |
19K05740
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
表 雅章 摂南大学, 薬学部, 教授 (90299032)
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研究分担者 |
軽尾 友紀子 摂南大学, 薬学部, 助教 (30826235)
伊藤 潔 摂南大学, 薬学部, 教授 (50201926)
船曳 一正 岐阜大学, 工学部, 教授 (50273123)
谷 敬太 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (60207165)
河合 健太郎 摂南大学, 薬学部, 准教授 (60826246)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 小分子 / 蛍光性化合物 / アニリン / フッ素 / 酵素活性プローブ / プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ |
研究実績の概要 |
本研究は、push-pullシステムを利用した分子サイズが小さな蛍光性化合物を合成すること、また、小さな分子サイズを利用して、基質特異性の高い酵素の酵素活性を測定する蛍光プローブを開発することを目標としている。これまでの成果として、アニリンのアミノ基の隣に 3,3,3-trifluoroprop-1-enyl(TFPE:-CH=CHCF3)基をもち、5位にシアノ基を有する5-CN-TFPE-anilineが極めて優れた蛍光特性を示すこと、さらに、水中でも光ることを明らかにしており、我々の知る限り、水中で蛍光性を保つ世界で最小の蛍光性化合物であることが分かりつつある。2020年度は、この5-CN-TFPE-anilineを大量合成し、歯周病菌が産生するプロテアーゼの蛍光プローブ創製に取り組んだ。歯周病菌は、加水分解酵素プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ(PTP)を産生して活動するが、PTPは基質特異性が高く大きな蛍光団では酵素反応を妨げるため、PTPの酵素活性用蛍光プローブはこれまでに開発されていない。そこで、分子サイズが小さく水中でも光る5-CN-TFPE-anilineを蛍光団に用いれば、PTPの蛍光プローブが創製できると考え、現在、Gly-Gly-Pro-[5-CN-TFPE-aniline]およびGly-Phe-Pro-[5-CN-TFPE-aniline]をターゲットプローブとし、それぞれの合成に着手している。また、2020年度に実施したリガンド-タンパク質ドッキング計算の結果から、新たにGly-Phe-Pro-[5-CN-TFPE-aniline]を標的プローブに追加した。今のところ、両プローブはトリペプチドの合成までを完了しており、残すところ蛍光団を縮合させる段階まで到達している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定では、2020年度に、プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ(PTP)の蛍光プローブ「Gly-Gly-Pro-[5-CN-TFPE-aniline]」を合成する予定であった。しかし、コロナ禍の影響で平常のように研究活動が行えず、化合物合成の過程が大きく遅れている。また、2020年度に実施したリガンド-タンパク質ドッキング計算により、Gly-Phe-Pro-[5-CN-TFPE-aniline]がPTPの活性部位に対して極めて高い親和性を示したため、これを標的プローブに新たに追加した。すなわち、「Gly-Gly-Pro-[5-CN-TFPE-aniline]」および「Gly-Phe-Pro-[5-CN-TFPE-aniline]」の2種を、PTP活性評価の標的プローブとした。トリペプチド「Gly-Phe-Pro」は立体的な要因で縮合が難しいとされているが、縮合剤をはじめとする反応条件を種々検討した結果、効率のよい合成経路を確立できた。一方で、蛍光物質の5-CN-TFPE-anilineは順調に合成できており、今後に向けた十分量が確保できている。また、5-CN-TFPE-anilineがなぜ強い蛍光性を示し、水中で光るのか、その理由を解明する取り組みも同時進行で行っている。つまり、5-CN-TFPE-anilineの誘導体である5-CN-ACNR-aniline(アニリンのオルト位に、-CH=CHCF3の代わりに-CH=CHCNが置換した化合物)の合成にも着手している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に遅れた研究計画をカバーするため、6月末までにはPTP活性評価の標的プローブ2種(Ala-Ala-Pro-[5-CN-TFPE-aniline]およびAla-Phe-Pro-[5-CN-TFPE-aniline])を合成する。両プローブが合成できた時点で、それぞれの生物学的評価を行う。プローブの評価系は既に確立しており、プローブが合成でき次第実施可能である。次に、5-CN-TFPE-anilineが水中で蛍光性を示す仕組みの解明にも注力する。これには、5-CN-TFPE-anilineの光励起構造に注目すべきで、光励起状態からの失活(緩和)過程、つまり、放射および無放射失活を速度論的に解析するアプローチが有効である。具体的には、計算上、光励起構造を最も安定化できる5-CN-ACNR-aniline(アニリンのオルト位に、-CH=CHCF3の代わりに-CH=CHCNが置換した化合物)の蛍光寿命励を測定し、放射失活および無放射失活の速度定数を算出し、比較する。これらの実験により、5-CN-TFPE-anilineがもつ優れた蛍光性を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により大学への入構が制限されたため、実質的な研究時間が大幅に削減され、当初予定していた研究内容が実施できなかった。繰越金(517,005円)については、前年度に実施できなかった化合物合成の試薬類およびガラス器具の消耗品に使用する予定。次年度請求分については、予定通り、個別のターゲット分子合成の試薬類、それらの生物活性測定用用試薬、蛍光寿命測定用試薬・セルなどに使用する。
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