研究実績の概要 |
本課題は宿主細胞がもつリン脂質であるカルジオリピン(CL)が、HIV-1が所有する構造タンパク質GagのMAドメインに強く結合するという知見をもとに抗エイズ薬への展開を目指した研究である。 研究開始当初、CL単独投与においてHIV-1の複製阻害が観察された。しかし侵入、放出、および複製過程を観察できるHIV-1増殖阻害評価系にCLをリポソーム剤形として投与すると、侵入過程においては抑制するが、放出過程においては逆に増強する結果となった。 CLがHIV-1複製に関与することから、この結合の意義を調べるためにCLの短鎖アシル鎖誘導体を設計・合成し、表面プラズモン共鳴(SPR)解析を用い、短鎖CL誘導体とMAドメインとの結合解析を実施した。同時にウイルス形成に重要であるPI(4,5)P2 誘導体との結合親和性も観察した。結果として短鎖CL誘導体(Tetra-C7-CL)と短鎖PI(4,5)P2誘導体(Di-C7-PIP2)は、それぞれ異なる結合様式で、同様の結合親和性でMAドメインに対して結合することがわかった。 最終年度は、創薬の観点からCL誘導体をMAドメインにさらに強く結合する構造に改変することを目的とし、分子シミュレーション(MOE)をもとに作製した変異蛋白質を用いて、CLとMAの結合に関与するアミノ酸の同定解析を実施した。CLとMAドメインではR22, K27, R76, S77が、PIP2とMAドメインではK27, K32が近接するが、これらのMA変異体において免疫沈降実験をもとにCLとの結合強度を比較した。結果としてR22、K27変異体において野生型よりもCLへの結合が減少したことから、本結合モデルに基づいた化合物の設計が可能となった。 本成果は、CL-MAドメイン結合に基づいたウイルス学的意義の解明ならびに化合物創製に寄与するものと考えられる。
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