研究課題
がん細胞は周囲の環境に応じて代謝を巧みに適応させることで旺盛な増殖を支えている。このような生存のための代謝適応は、がん治療の有望な標的になると考えられるが、エネルギー代謝のスイッチ機構は不明な点が多い。本研究は、グルコーストランスポーターであるGLUT1をノックアウトしたがん細胞を用いてエネルギー代謝のスイッチ機構を明らかにし、それを標的とした小分子阻害剤を開発することを目的とする。DLD-1野生型細胞とDLD-1 GLUT1-/-細胞のMSベース定量プロテオーム解析を行い、GLUT1-/-細胞において定量値のついた約6,000タンパク質のうち約400タンパク質で有意に発現量が変化していた。これらの中で、有意な発現量の増加がみられた代謝関連タンパク質について、そのリコンビナントタンパク質を用いて化合物アレイスクリーニングを行った。その結果、理研NPDepo化合物ライブラリー約22,000化合物をスクリーニングし、複数のヒット化合物を取得した。また、バックアップスクリーニングとして、がん細胞の増殖あるいはエネルギー代謝の阻害を指標にしたセルベーススクリーニングを実施した。その結果、NPDepo化合物ライブラリーから複数のヒット化合物を取得した。ヒット化合物の中には、さまざまながん細胞に対して強い増殖阻害活性を示す化合物や、ある種のがん細胞に選択的に毒性を発揮する化合物などが含まれており、今後詳しい作用機構を調べていく。
2: おおむね順調に進展している
本年度は主に、グルコーストランスポーター1(GLUT1)をノックアウトしたヒト大腸がんDLD-1 GLUT1-/-細胞とDLD-1野生型細胞の定量プロテオミクス解析から得られたエネルギー代謝スイッチ候補因子に対する化合物アレイスクリーニングを行い、ヒット化合物を取得することができて、当初の予定通りおおむね順調に進んだ。また、バックアップスクリーニングとして実施した表現型スクリーニングにおいても複数のヒット化合物を取得することができた。
今後は引き続き、メタボローム解析やプロテオーム解析等を駆使して、がんのエネルギー代謝スイッチに関わる分子や経路の同定を目指す。また、ターゲットベーススクリーニングおよびセルベーススクリーニングにより、がん代謝を標的とした小分子阻害剤の探索および同定を進める。
実験用消耗品等にかかる物品費や成果発表にかかる旅費が当初見込んでいた費用を下回ったため、次年度使用が生じた。この残額は、次年度の物品費あるいは旅費として使用する予定である。
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