研究課題
がん細胞は周囲の環境に応じて代謝を巧みに適応させることで旺盛な増殖を支えている。このような生存のための代謝適応は、がん治療の有望な標的になると考えられるが、エネルギー代謝のスイッチ機構は不明な点が多い。本研究では、がん細胞のエネルギー代謝スイッチ機構を明らかにし、それを標的とした小分子阻害剤を開発することを目的とする。本年度は主に、がん細胞の代謝や増殖をターゲットにしたセルベーススクリーニングで得られたヒット化合物の作用機作解析を行った。NPD403は膵臓がん細胞の増殖およびエネルギー代謝を阻害する化合物としてNPDepo化合物ライブラリーから見出した。化合物ライブラリーに含まれていたNPD403は、複数の立体異性体を含む混合物であったことから、活性が最も強い異性体を単離、精製し、X線結晶構造解析により絶対立体構造を決定して、NPD403-5(glutipyran)と名付けた。Glutipyranの標的分子を明らかにする目的でglutipyran処理細胞のプロテオームプロファイリング解析(ChemProteoBase)をしたところ、glutipyranは解糖系阻害剤を含むクラスターに分類された。そこで解糖系に対する作用を詳しく調べた結果、glutipyranはglucose transporter(GLUT)を標的にしていることがわかった。そして、glutipyranはGLUT1やGLUT3を標的にしたブロードなGLUT阻害剤として作用することを明らかにした。glutipyran処理細胞のメタボローム解析では、解糖系代謝物が総じて顕著に減少していることを確認した。さらに、glutipyranは膵臓がんゼノグラフトマウスモデルにおいて、体重減少を引き起こさず有意な抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は主に、バックアップスクリーニングとして実施した表現型スクリーニングで得られたヒット化合物の作用解析を進めた。Glutipranについては、その標的分子が解糖系にかかわるGLUTs(GLUT1やGLUT3)であることを明らかにし、さらにin vivoで抗がん活性を有することを示すことができた。Glutipyranの作用については新しい知見も得られており、今後詳細に調べるとともに、エネルギー代謝のスイッチングに与える影響も調べていく予定である。GLUT1やGLUT3は、多くのがんで過剰発現しており、がん化や悪性化に寄与している。そのため、glutipyranは抗がん剤シードとして今後の薬剤開発が期待される。また、glutipyranのほかにも複数のヒット化合物を取得しており、作用機作や抗がん活性の検討を進めた。
これまで、エネルギー代謝のスイッチングにかかわる可能性のある候補タンパク質に対する化合物アレイスクリーニングを実施し、ヒット化合物を取得してきた。今後は、得られたヒット化合物について、in vitroおよび細胞レベルでの高次評価を進めていく。また、がん代謝機構を標的としたセルベーススクリーニングで得られたヒット化合物についても、標的同定および作用機序解析を進めていく。
コロナ禍で一部物品の購入が大幅に遅れたり、学会がWEB開催になったため、実験用消耗品等にかかる物品費や成果発表にかかる旅費が当初見込んでいた費用を下回り、次年度使用が生じた。この残額は、ターゲットベーススクリーニングおよびセルベーススクリーニングで得られたヒット化合物の解析に必要な物品費や、成果発表に必要な旅費として使用していく予定である。
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