研究課題
がん細胞は、周囲の環境に応じて代謝を巧みに適応させることで、旺盛な増殖や過酷な環境下での生存を支えている。このような生存のための代謝適応は、がん治療の有望な標的になると考えられるが、エネルギー代謝のスイッチ機構は不明な点が多い。本研究では、がん細胞のエネルギー代謝スイッチ機構を明らかにし、それを標的とした小分子阻害剤を開発することを目的とする。本年度は、候補スイッチ分子に対する化合物アレイスクリーニングおよびがん細胞の増殖・代謝を標的としたセルベーススクリーニングで得られたヒット化合物NPD971の作用機序解析を行った。DLD-1 GLUT1-/-細胞の定量プロテオミクスで得られた候補スイッチ分子および文献調査で選択したタンパク質の化合物アレイスクリーニングを行った。理研NPDepo化合物ライブラリー約36,000化合物をスクリーニングした結果、いくつかのタンパク質について複数のヒット化合物を得た。NPD971はさまざまながん細胞の増殖を阻害することを見出した。NPD971の標的分子を明らかにする目的で、2DE-CETSA法によりNPD971の結合タンパク質を探索した。2DE-CETSAは、最近我々が開発した二次元電気泳動法(2DE)とサーマルシフト法(CETSA)を組み合わせた薬剤標的同定法である。その結果、結合候補タンパク質の一つとしてHSP70を同定した。Tychoを用いた相互作用解析により、NPD971はHSP70に直接結合して熱不安定化を誘導することがわかった。さらに、NPD971を処理したがん細胞では、HSP70によって発現制御されているIAPファミリータンパク質XIAPおよびsurvivinの発現が顕著に低下していた。以上のことから、NPD971はHSP70を標的にして、がん細胞の増殖を阻害することが示唆された。
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